目指したのは―――



仕事で田舎に来たらヒバリが鳴いてて、声が聞きたくなった。

「恭弥元気かー？」
「……貴方は。」

日本は夜だから出るか不安だったけれど恭弥は電話にでた。
声を聞くのは指輪争奪戦以来かもしれない。
恭弥の家庭教師、楽しかったな。
ほんの少し前の話なのに懐かしい、生意気な声。
可愛くねぇなぁと思ってたら頬が緩んでいたらしく運転席のロマーリオに笑われた。
話したいことはたくさんある。
俺が嬉々として話していると不意に恭弥が黙りこんだ。

「恭弥？」
「あ、…今は忙しくないの？」
「今は車で移動中。」
「…そっちは、晴れてる？」

晴れてる、なんて特に意識してなかったから空を仰ぐ。
そうだ、ここはイタリアの片田舎。
コンクリートの建物なんて何処にもない。
一羽のヒバリが真っ青な空を翔る。

「あぁすっげぇ青空だ！」




　　
　　　　　　　　　　　BlueBird





“寂しい”なんて思わなかった。
いつも、俺の周りには人が集まるからそんなの感じない。
なのに切なかったんだ。日本にいる子に会えないことが。
久しぶりに聞いた恭弥の声が耳をくすぐるから。
電話越しの国境越し、たった一人に芽生えた感情が言葉になりそうで。
返事を待つと決めたのに、もう一度「好きだ」と言って俺のものにしたくなる。
今まで必死に殺していた、大人の撃ち落とす計画で。

「見てみたいな、青空。」
「…恭弥？」

どす黒い俺を置き去りにして、電話の向こうから青空の御所望。
建前より本音が欲しくて、もう一度聞き返した。

「行ってみたいんだ、イタリア。」
(これは俺に会いたいってことか？)

恭弥から誘われるなんて思ってもみなかった。
俺も最近働き過ぎたから、休暇もらって一緒に過ごすのも悪くない。

「今夏休みだろ、来るか？」

笑って言ったのに、電話の向こうの空気が張りつめた。
緊張と不安が無言に訴える。
恭弥、と声をかけようとしたが先に向こうが切り返した。

「…行ったら、もう並盛には帰らないよ。」

マフィアになる、と言うことだろうか。
恭弥が好きな学校も、町も、国も捨てるというのか。
全部、捨てて俺のところに？

「だから、僕を迎えに来て。」

思わず息を呑んだ。
日本にいる最後の日、俺が告白した時と同じ真剣な空気。

「本気なのか。」

僕はいつでも本気だよ、はっきりと恭弥は言った。
恭弥は言い逃げした俺を追いかけている。
俺が狡い大人らしく、気持ちを曖昧にするのを許さないように。
ぎゅっと携帯を握り締める。
本当は、今すぐ恭弥を抱き締めたい。
疾走するフェラーリ、青空の下、心だけ孤独だった。

「ごめんな、恭弥。」
「好きって言って、いなくなるのは狡いよ。ディーノ。」
「ごめん。俺の事、忘れて欲しくなかったんだ。」

屋上で出会ったとき、空から撃ち落としたい存在に出会った。
これは落ちる、いや一緒に落ちたいと強く思った。
離れても離れても、黒髪の小鳥が欲しくて欲しくて堪らない。
俺のことをもっともっと追いかけて欲しい。

「もう戻れない。好きだよ、ディーノ。」
「…明日、そっち会いに行く。」

愛してるよ。
初めて真剣にいった台詞の声色に、自分でも驚いた。
こんなにも俺は恭弥が好きだったのかと今更ながらに自覚。
電話を切ると、もう風を切る音しか聞こえない。
どさっと座席に倒れこんで、両手で顔を覆う。
ボス、顔が赤いぜ。皆まで言うなロマーリオ。
今までずっと俺が恭弥に仕掛けていたのに、不意打ちで告白されたから。
それに、ほら

だって目を開けると、あの子が欲しがる―――








青い　青い　あの空！