目指したのは―――


眠ろうと部屋の灯かりを消した瞬間、静かに携帯が発光した。

「恭弥元気かー?」
「……貴方は。」

よく分からない指輪の戦いの後。
いきなり貴方、いなくなったじゃないか。
懐かしい、あまりにも久しぶりすぎる国際電話。
忙しかったんだと、別に言われなくても分かる。
長電話になると覚悟してベッドの端に座った。
不覚にも凄くどきどきして。
耳元で嬉々とした声が響くだけで、意味なんて全然入ってこない。

「恭弥?」
「あ、…今は忙しくないの?」
「今は車で移動中。」
「…そっちは、晴れてる?」

意味なんて入ってこないから何となく、聞いてみた。
心臓が煩くて会話なんて成り立たない。
裸足で冷たいフローリングをなぞった。
でも、眩しい声が帰って来る。

「あぁすっげぇ青空だ!」





          ブーバード





“寂しい”なんて知らなかった。
寧ろ、貴方がいないことに違和感を覚えた自分に違和感を感じて。
それを 切ない と言うと最近知った。
久しぶりに聞いた貴方の声が耳をくすぐるから。
電話越しの国境越し、知らなかった感情が言葉になっていく。
寂しい、切ないよりも厄介な言葉を、言ってしまったらどうなるんだろう。
今までは漠然と考えていただけの飛び立つ計画を。

「見てみたいな、青空。」
「…恭弥?」

電話の向こうから、本日二回目の疑問系。
もう一度言うから、お願い電波は邪魔しないで。

「行ってみたいんだ、イタリア。」
(貴方の世界で貴方に会いたい。)

向こうからくすくす笑う声が聞こえる。
至極楽しそうに、切り替えされた。

「今夏休みだろ、来るか?」

つきんと痛む。
僕は不愉快でならない。
そんな意味で言ったんじゃないのに。

「…行ったら、もう並盛には帰らないよ。」

マフィアになるのも構わないし、厭わないよ。
愛する並盛も、委員長の地位も、国も捨てて行く。
振り返りも後悔もしないと約束できる。

「だから、僕を迎えに来て。」

息を呑む音が聞こえた。
最後の日、僕に告白した時と同じ真剣な空気。
本気なのかと貴方は言った。

「僕はいつでも本気だよ。」

真剣に追いかけないと、貴方は逃げてしまうから。
そう僕に教えてるのは今イタリアにいる貴方自身。
ぎゅっと携帯を握り締める。
本当はあの眩しい人の手を握りたい。
真っ暗い部屋、布団の上、堪らなく不安だった。

「ごめんな、恭弥。」
「好きって言って、いなくなるのは狡いよ。ディーノ。」
「ごめん。俺の事、忘れて欲しくなかったんだ。」

屋上で出会ったとき、飛び降りるような感情に出会って。
あぁこれは堕ちていくんだろうと確信した。
振り切っても、眩しい金髪の人が欲しくて欲しくて堪らなくて。
どこまでも追いかけたい。

「もう戻れない。好きだよ、ディーノ。」
「…明日、そっち会いに行く。」

愛してるよ。
初めて聞く声で、お休みと告げられて。
電話が切れる電子音が心臓と同じ早さで鳴る。
どさっと後ろに倒れこんで、眠りに落ちた。
もし今までが夢ならずっと迷いこんでいたいなんて思いは杞憂。

だって目覚めると、あの人が見ていた―――








青い 青い あの