第七夜





赤いフェラーリは疾走する。

ねぇディーノ僕達はさ、助手席から外を見ると車がどんどん流れている。
なんだ、と短く切り替えされたけどトンネルに入ったから僕は黙りこんだ。
ライトに照らされ全世界がオレンジに染まる。
ざあぁ…　というアスファルトの擦れる音がしばらく響いている。
海に向かう国道、トンネルを過ぎて開いた天を仰ぐとキラキラと星空。
静けさを取り戻した夜にぽつりぽつりと僕は言う。
きっと僕達はずっと一緒にいたら何もしなくなるから、遠距離恋愛なのかもしれない。
言ったとたん、かもなーという気のない声が返ってくる。
外と反対側のディーノを見ると金髪が風に揺られてふわふわと輝いていた。

海沿いの道は真っ暗だから。

もう一度空を見ると、遠い空にだけ星の灯かりが浮かんでいる。
国道を降りた車は鈍足で夜の海岸まで向かう。
貴方と一緒にいたい、独り言のように呟いてみた。
運転席の男は驚いた顔をしたあとに俺も、と言った。
そのあとに、何かあったかと言った。
僕が何かを言う前に、ゆるりと車が海岸横に止まる。

スニーカーは車に捨てた。

裸足で細かい砂をざりざり海まで歩いて行く。
そんな僕にディーノはそっと付いて来る。
ぱしゃぱしゃと波打ち際で遊んでみる。
足だけがひんやりする。
少しだけズボンの裾が濡れたから捲って、踝まで浸かる。
見えない波の音、満ち引き、潮の空気に満たされて、足のうらを砂が蠢く。
水面は暗いのに自棄にキラキラとして、天の川なんてあったらこんなもんだろうと確信した。

次の瞬間走りだす。

濡れるのなんて、どうでもよくなった。
膝下までばしゃりばしゃり見えない海を駆ける。
きっと会えるだろう、泳ぎきったら一緒にいられるだろう。
ばしゃりばしゃり、水が膝ぐらいまで来たけど走る。
会わせて欲しいんじゃない、会いに行きたい。
だけど…　夢中で空を泳ぐ腕を抱き寄せたのはディーノだった。
ひんやりした水とは正反対の温度が染み込む。
向き合うととくんとくん心臓の声がする。
同じように、恭弥恭弥と彼は僕の名を呼び続けた。
それから、今日七夕だろと言った。

嗚呼、そうだったと思った。

真っ暗なのにどうしてかディーノはキラキラしている。
不思議に思って背伸び、その髪の毛にキス。
僕を見てくすくすと笑う彼は嫌いじゃない。
暗いのに見えるんだ、不思議。
そっと離してもらって、二人で砂に短冊を書いた。
裸足の足でざりざりと書く。
押し寄せる波に、願い事をわざとらしく拐わせる。




そして真っ暗い海を二人、後にする時
僕は何年たっても傍にいるんだな、と思った。