「誕生日、恭弥は何欲しい?」
「…足の指輪。」
「なんで?」
「じゃあ赤くない所有印。」
「ちょ、大胆…」





             彼のに証





ばたん、

伊語で書かれた新聞の三ページ目を捲ったところで、スリッパをつっかけた恭弥がバスルームから帰ってきた。
くしくしと眠い目を擦っている。
うんうん、また今日も一段と可愛い。
寝不足の原因は俺だから、声には出せず台詞は飲み込んだ。
バスローブ一枚でタオルを首にかけた恭弥は、俺が座ってるベッドまでたどり着くとぽすんと座る。
ベッドがほんの少しだけ恭弥の方へ傾いた気がした。
朝、と言うには遅すぎる日光が真っ白いシーツに差し込んでいる。

ばさり、

新聞をベッドボードへ置き、恭弥の肩からタオルを抜いて髪を乾かす。
ドライヤーなんて使わないのが俺流。
ふわふわのタオル生地で恭弥の髪もふわふわにしていくんだ。
恭弥も満更じゃないようで、この時は大体大人しくしてくれる。
わしゃわしゃと大体乾かしたら、手ぐしで整えて終わり。
この時の、指通りがいい恭弥の髪が俺は堪らなく好き。
うっかり耳を触るとぴくりと跳ねる、そんな恭弥も大好き。
だから髪を撫でるとき、3回に1回はそぉっと耳を中指でなぞっていく。
ぴくり、ぴくり
ああぁもう可愛い!
がばっと、勢いよく恭弥が振り返る。

「ん、どぉした恭弥?」
「……貴方、わざと?」

わ・ざ・と。
声には出さず、唇の形だけで告げると、恭弥は突然ベッドから立ち上がる。
俺から逃げ出そうなんて、許さない。
腕の中に閉じ込めてベッドの上に共倒れ。
ばたばた動く手足を体全体で丸め込む。
動けない恭弥から酷く不機嫌な視線が飛んで来るけど気にしない。
白い右足をつかんで、ベッドの真ん中まで引っ張りこむ。
ちょっと今日はやりたいことがあるから。
だって今日は大好きな恭弥の誕生日。
かぐや姫ばりの無理難題を今年は出された気がしたから、色々考えたんだ。

「…何?」
「なんだと思う?」

左足首をそっと掴みなおしてから色とりどりの小瓶を並べた。
俺からの誕生日プレゼント。
ビビットカラーからパステル、パール、ラメ入りまで。
不思議そうなものを見る恭弥の眼が、段々不機嫌なものへと変わっていく。

「…マニキュア、なんで?僕、男なんだけど」

じっと睨まれても怖くない。
ただこのままだと蹴られそうだなと思った。
直感と本能で誘われるまま足の甲にキスを落とす。
赤い証を残そうと、少し痛いくらいに。

「…っ、ディーノ!」

比例して恭弥の頬も赤く染まる。
いつまでたっても初なところだけは変わらない。

「昨日赤い痕、沢山つけただろ、俺。」
「そうだね、鏡見ていつも驚く僕の身にもなってよ。」
「でも仕事で会えないと全部消えちゃってけっこう悲しんだぜ?」
「……。」

枕を背もたれにして座る恭弥の足を膝に乗せて、手にとるのは透明のマニキュア。
蓋を開けて、その刷毛で薄い膜を貼っていく。

「これなら時間経っても消えないだろ?赤以外もあるし。」
「…そうだね。」

下地が乾いたは次は色合いを。
色々と持ってきたけれど、どれがいいだろう。似合うだろう。
赤くない所有印、後は恭弥が選べばいい。

「俺からの消えない痕、何色がいい?」

少し考えるような素振りをしてから、すぅっと恭弥の指が動く。
練乳のような白、甘酸っぱいレモン、詐欺師めいたオパールを通過。
深入り珈琲色の瓶を倒し、天使のほっぺの上で少し迷って、選んだのは真っ黒い小瓶。

「これがいい、ディーノ。」
「黒?」

投げて寄越された瓶をまじまじと眺める。
たくさん並べた中から選びだした恭弥の色だ。
また足の爪に薄く伸ばして塗っていく。
乾かす為にふぅと息を吹き掛けるとくずぐったそうにする。
その仕草が堪らない。

「はい終わり!」

まだちゃんと乾いてないからな!
俺が言うのを聞いてたのかいないのか、とりあえずシーツに爪はつけないよう今度は俺の足へ向かう恭弥。
代わりに俺へと投げ出された足は、見るとなんだか煽られる。
幼さの残る小さい足、白く細い足首、だけど場違いに黒く光る爪。
今日、また一つ年を重ねて綺麗になった教え子。
このまま成長したらどこまで美しい生き物になるだろう。
いつまで見ても飽きない、また足の甲にキス。

「ん…ぁ、やめてディーノ、」
「なんで?」

今度は貴方の爪に同じ色、塗るんだから。
魔性の子があまりにも綺麗に微笑む、手にはマニキュア。
誰にも晒さない、靴の中に秘める真っ黒い証。
二人きり素足を晒す度に、少し恥ずかしくなるんだろう。
恭弥の手つきを眺めてたら優しく息を吹きかけられた。

「うわっ!」
「仕・返・し。」

恭弥このやろー可愛いなぁ!
はぁ、ちょっと何言ってるの!
ルームサービスでも取ろうかなって思ってたのによ。
じゃれあってたら昼間っからもう真剣になっちゃって。
俺は服着てるけど恭弥なんてバスローブのまま、黒い所有印以前に赤い所有印まで晒してる。
また一緒にお風呂かなぁ…
シーツの上に置きっぱなしの小瓶たちがガチャガチャ音をたてる。
気にしないで、恭弥の指通りのいい髪にキスを落とした。




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