「恭弥、チョコありがとな」 「別に高いやつじゃないしついでに買ったやつだし…」 「いいの、俺凄く嬉しいし。ホワイトデー、恭弥はどうしたい?」 「…ハンバーグ食べたい、美味しいやつ。」 「わかった。」
僕の髪の毛をふわふわと優しくなでて。 にこにこ微笑みながらぎゅっと抱きしめてくれる。 だからこういえば、貴方と一緒にいられると思ったの。
待つのも楽しい恋の話
学校に行こうと玄関を出た8時過ぎ。 3月14日の朝、ポストに届いたのは白い封筒だった。 開いてみるといつも行くホテルのレストランのチケット一枚。 と、『ごめんきょうや』という走り書き。 視線をディーノ直筆のサインから外して深呼吸する。 そらは今にも泣き出してしまいそうな曇り。 あの人と付き合う以上いつも覚悟はしてる。 用は一人で行ってこいと言う事だ。 僕は朝からため息を一つついて家の中に引き返す。 なにもする気がしない。 むしゃくしゃする自分を抑えこんで、もういっかい布団の海に潜った。
学校も行かなかったし、そのまま今日は何もせず夕方。 ディーノは来ない。その事だけしか考えられなかった。 ベッドボードに置いたケータイがガタガタ呼ぶのが聞こえる。 転寝から目を覚ますと、カーテンのレース越しに窓からオレンジ色が差し込んでいた。 身体を起こしてぼんやりと時計を眺めると、もう6時を迎えようとしている。 随分と日が伸びたな、そう他人事に思いケータイに手を伸ばして息を呑む。 嬉しい着信、すぐに通話ボタンを押した。
「…もしもし、」 「ごめんな、恭弥。こっちまだ仕事中なんだ。」
そうか、今こちらが夕方6時前ならあちらまだは午前中だろう。 国際電話の向こう側では慌ただしい人の話す声がひっきりなし。 それでもディーノの茶目っ気のある困り声が耳にポンポンと弾んでゆく。 声を聞いて自然と僕の頬は上がっていった。 薄く微笑む。そう僕はこれぐらい大丈夫なんだから。 ちりちりと芽生えるのは小さな小さな暖かい自信。
「ホワイトデーなんて日本だけなんだから、別に気にしなくていいよ。」 「いやぁダメだ、この仕事片付けたらすぐ行くから!一緒祝おう!」
ディーノの困った声。 きっと電話の向こう、眉をひそめて苦笑いしてる。 大丈夫だよ、僕はイベント一つで貴方を嫌いになんかならない。 ぽすんと上体をベッドに投げ出して、イタリアを想い描いてみる。 伝えたい事はたくさんある、でも今言葉にしたい事は一つだけ。 「二、三日なら待っててあげるよ。」 「おう!頑張るからな!」 「じゃあ切るね、」 「愛してるぜ、恭弥!」
思わず息を飲んだ瞬間聞こえてきたのは通話終了を告げる電子音。 言い逃げなんて酷い。 会ったらまず僕から愛してると言おう。 そしてとびきりのハンバーグを奢らせるんだ。 さぁお風呂に入って髪を洗おう。 彼はシャンプーの匂いがお気に入りみたいだから丁寧に。 だめだ頬が緩みっぱなし。 ハンバーグの為なんだから、これくらいのサービスは喜んでするよ。
僕をこんなに出来るのは、貴方だけ
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