※10年後注意
優しいキスをして
「明日、日本に行くよ。」 「…あぁ。」
ボンゴレが壊滅状態になった。 そして始まったボンゴレ狩り。 イタリアで一通り暴れてから雲雀はディーノの元を訪ねた。 見知った屋敷の中をある一部屋を目指し歩く。
スーツの上着は放り投げられていて、部屋も薄暗い。 その中で一人椅子に座るディーノを見つけると、用件だけを告げた。 しばらく続く沈黙。 手を祈る様に組んで俯いていたディーノが、視線は寄越さずに問う。
「並盛か?」 「そうだよ。」
雲雀は答えながら閉め忘れられたカーテンを引いた。 猫の目をした月が煩わしいかったからだろう。 シャッとカーテンレールを這う乱暴な音が響く。
「恭弥、」 「何?」
くるりと振り向くと、 おいで、と手を伸ばす男。 待ち人が来るまで、きっとずっと伸ばされるであろう腕。 そろそろと雲雀がその腕の中に収まると、やっとディーノは笑った。 そして耳、額、頬、唇と順番に接吻していく。 雲雀がくすぐったそうにするのをみて、また笑った。 生温い吐息がどちらかともなく零れ落ちていく。 耐えられなくなった雲雀が顔を押し退けた。
「明日の朝まで、ここにいるから…」 「わかった。」
そしてまた愛しそうに、慈しむように唇をよせる。 いつまでも聞いていたいと思う声が邪魔なくらい触れ合っていたかった。
「きょうや、恭弥、」 「…何。」
呼ばれて視線がかち合う。 薄暗い部屋の中で、蜂蜜色の眼は輝いて、漆黒の眼は艶を増す。 椅子の上は、愛を広げるのにあまりにも狭すぎて。
「恭弥、キスして。」 「僕から?」 「そ、」 「したら何かしてくれる?」
キスをねだられると、腕の中からスルリと抜け出してベッドルームへ。 廊下を追いかけていくと恭弥のスーツの上着が放り投げてあった。 ドアの手前にはワイシャツから引き抜かれたネクタイ。 シーツの海の前でディーノはやっと恭弥を捕まえて、そのまま海に飛び込む。 未だに細い身体を抱えてこむのは簡単なこと。 また耳元に唇を寄せる。
「電話してくれたらすぐ会いに行く。」 「それから?」 「仕事全部放り出して走って行く。」 「そう。」
眼瞑って、言われたとおり閉じた大人に青年は優しいキスを。 頬に触れるだけ、気持ちいいより心地よいだけの子供のような。
「満足?」 「あぁ。おやすみ恭弥。」 「ん、」
肩を引き寄せて抱き合って、真っ黒い髪を指先で弄んで。 10年前少年だった青年が眠るまでずっと、青年だった大人はそうしていた。
明日なんていらない
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