「やっぱ日本のものはいいなぁ…」 「…ちなみに聞くけど、何が。」 「浴衣から見える恭弥の太も 「死ね。」 「ギャァァァー!」
ひめはじめ
今日はいつものホテルじゃなかった。 新年1月1日0時を過ぎ、BGMと化していた紅白を消して、煩悩を払う鐘を聞きながら寝ようと思っていたのに。 クリスマス以来聞いていなかった声とエンジン音が聞こえた気がして… かっさらいと言ってもいい、見慣れた赤い車に拐われた。 そして1月1日が始まってまだ30分くらいの今、旅館にいる。 ひどく豪勢な、庭に池まで付いてるやつに。 それで、それまた豪華な温泉に入ってきた。 でも日本のものは豪華といっても、華美にはなっていない。 落ち着いた、かけながしのお湯の音が連面と続く、趣きある温泉。 ディーノが後から入ってくるかもと少し警戒しながら、それでも冬の星空を満喫した。
で、だ。
それで上がってみると、もうひいてある布団に転がってる男。 よくよくみると二組の布団をぴったりと合わせてあるあたり、用意周到。 寝てる柔らかい金髪の頭を裸足で蹴っ飛ばすと、下からの視線。 仰向けになってニヤニヤするディーノ。 気味悪くて胸あたりを右足でふんずけるとギャと一声。 そのへんで許してやって、「何?」と聞いて冒頭に戻る。 それであの返事だ。 もちろん、もう一回思いっきり踏んでやった。
「で、どうしてこんな時間に来たわけ。」
すっかり浴衣なのを忘れて蹴りをいれたのは反省した。 だからとりあえず布団の上に座って男の言い分を聞くことにする。 正座して、しゅんとしてる年上は何だか可愛い。 …それに、温泉に入れたのは、僕も少し嬉しかったから。
「1月2日は恭弥と過ごしたくて…。」 「なんで二日なの、今日一日。」
高圧的に言うと、さらにまた縮こまるディーノ。 僕より背も体格もいいのに、頼りない。
「ひめはじめ、2日だって…」 「何それ。」 「新年最初にセッ「黙れ。」
正座してる足をつねってやると、また悲鳴をあげて地に伏した。 ようは二日になった瞬間に食う算段だったのか。 クリスマスが終わって仕事詰めだったと思ったら、無理矢理時間を作る為だったのだろう。 まったく、面白い。思わず笑ってしまう。 もちろん呆れて、だ。 立ち上がると、倒れていた男もむくりと起きる。 そして背を向けた僕を後ろからギュッと抱いた。 必死なのだけは妙に伝わるから不思議。 なんとなく、甘えたいんだろうなと思った。 抱きしめられたというより、抱きつかれたといった方が正しい。 甘えられるのもたまにはいいかもしれない。 ふぅとため息を吐くと、後ろから回された腕の力が強くなった。
「恭弥ぁー…」 「じゃあ、2日まで手、出さないでね。」 「へ?」
言って僕は、浴衣の帯をほどく。 ちょっと逆上せて熱いからだ、と自分に理由付けて。 無性に甘えたい時、温もりは至上のものだと教えてくれたのは彼。 …何やってるんだろう。 しゅるりと帯が落ちていく音だけやけにリアルに響く。
「甘えていいよディーノ、布団でじゃれるだけならね。」
そのままふわふわの柔らかい金髪を掴んで布団に二人で雪崩れこんだ。 僕からだけ石鹸の匂いがして、彼からは薄く汗の匂いがする。 でも正しく、それは僕が安心するディーノの匂いだ。 まだひんやりする布団も、触れ合う面積は暖かい。 とくとくと鳴る心臓に、とろりと眠気に襲われる。 きゅうと浴衣を握りしめられて、何だか微笑ましいと思った。
「…仕事、お疲れさま。」 「ん。ちょっと寝かせて、恭弥…」
二組敷いたのに結局くっついて。 いつも彼がするように、今日は僕が彼の髪撫でて。 眠る表情に、あぁ貴方もまだ幼いんだなんて思ったり。 まだまだ夜はあけないから。 いい夢が見れますように、おでこにそっとキスをして。 僕も、もそもそと暖かい腕の中に潜りこんだ。
ゆるりすごす、なんて幸せ
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