ほら、これは俗に言う
「もう馬鹿っ、カボチャのお祭りなんか知らない、帰る!!」 「あっ、おい恭弥!」
勝手知ったるホテルから脱出するのは造作もないことだった。 あー、最悪最悪最悪! なんなんだあの、変態は。 男という生き物はみんなあんな変態なのか。 (もちろん僕自身は例外に含む) 今日は何の日だって?知ってるよそんなの。 去年だって僕が覚えてて、ディーノの方が忘れてたんだから。 あの黄色、いやカボチャ頭。内容量もぴったり。 そう、ディーノせいだ。
去年は忘れてたから、今年はと張り切ってた馬鹿がいけない。 イライラと一緒にエレベーターを降りて、エントランスを横切る。 一階まで直通だったから、誰に捕まるでもなくホテルの外に出た。 あぁ清々するっ! そのまま町をローファーで踏み鳴らして歩いた。 アスファルトにカツカツと一定のリズム。 もう暗くなっているから人に会うこともないだろう。 後は家まで歩けばいい。 ついでに獲物を狩るのも悪くない。
だってあの男はわざわざ僕に衣装まで持ってきたんだから。 何が着せたかったのかまでは知らないよ。 受け取る前にトンファー振り回しちゃったし。 ただイラっとくる僕の気持ちは分かってくれただろう。 その、俗に言う、あれ。こすちゅーむぷれいってやつな訳で。 ……恥ずかしい!
ふと暗闇の静けさから町の喧騒を見やると、黒いスーツのサラリーマンばかり。 君の部下が着るとあんなに決まるのに、どうも日本人には似合わないみたい。 見慣れすぎてしまったよ、僕に気安く話しかける黒いスーツなんて。 遠目に眺める黄色信号のライト。 だから貴方に注意される筋合いはないって言ってるでしょ。 町中の黄色に貴方の顔が浮かんで、心臓がおかしくなる。 腹立たしいはずなのに、一斉に灯る黄色にたった一人の顔しか浮かばない。 町の喧騒と面影を振り切るため僕は走った。 何本もの黄色を無視し続ける。 もう家も近いだろう、そう思えるぐらいまで本気で走った。 すれ違った恋人たちに自分を重ねて合わせたりしないように。
ポケットに放り込んだ携帯が震えている。 気が付くともう家の玄関だ。 息を切らせて歩みを緩める。 ドアノブに触れて、まだ携帯が震えている事に気づく。 その画面はイタリア人の名前を表示する。 なんで僕、こんな走ったんだっけ。 息を切らしたまま通話ボタンを押した。 聞こえたのは、すがる駄目犬の鳴き声。
「…何、」 『なんもしないから、さ。一緒にいたい。』 「何処にいるの?」 『恭弥ん家の前。』 「は?」
真っ暗闇に白い光がパッと灯る。 条件反射で閉じてしまった瞼を持ち上げると、見慣れたフェラーリが止まっていた。
『恭弥、』
耳元から甘い声がする。 受話器を持った黄色が笑っていた。 歩いてくる男に聞こえない声で電話に話しかける。
「僕、機嫌直してないよ。」 『ハロウィン、恭弥が嫌なら別にいいや。』
彼の大きな手のひらが僕に伸びる。 そんなに優しく抱きしめられたら、振り切って逃げられないじゃないか。 背中に腕を回されても、僕は抱きしめ返したりしなかった。 だって――――――――――
「…ねぇ、何コレ。」 「ねこみみ?」
そう、頭にぽんと乗せられのは黒い獣の耳。 電話なんかじゃない目の前の男は飄々と言った。
「じゃ、ホテル帰ろうぜ黒猫ちゃん。」
もちろん殴ったのは言うまでもない
<去年は飴、今年は仮装、さて来年は?>
おまけ
…ん、ぁ ディーノ、 なんだよ恭弥 さっ、きから耳ばっか、り あれ?弥の耳はこっちだろ も、ばかぁ…
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