閉じた目の上なら憧憬の
「恭弥ぁ、ただいまぁー!!」 「…おかえり。」
ほら、なんで日本について一番先に僕のところへ来るの。 本当にこの人は何のために日本に来るんだか、ときどき分からなくなる。 …それに“ただいま”って。
「ディーノ。ただいまって、家に帰ったときに使うんだけど。」 「俺の帰る場所は恭弥のところだけだぜ。」
…故郷は、家は、イタリアだろうが。 なんでこんなにもストレートにものが言えるんだろう。 言うだけじゃない。 言いながら、引き寄せて、頭を撫でて、すっぽり抱きしめてくれる。 僕が体重をかけたって、ずっとそのままその腕で離さない。 だからいつも、立ったまま窓辺でのお喋りになる。 別に抱きしめられるのは、キライじゃない。
「いっやぁー、久々にちゃんと街まで回ってきたんだけど、やっぱあんまり変わってなかったな。」 「…ふーん。」
F1のレースがあったときと、イタリアから帰ってきてすぐのとき、ディーノはその話ばかりする。 しかも凄く楽しそうに。だからいつもイライラする。 …ディーノに会いたくない。 僕の知らないことばかり知ってるなんて。ずるい。 なんで僕がつまらなそうにしてるの、気づいてくれないんだろう。
「ねぇ、目つむって。」 「ん?ほら。」
両手をその逞しい肩にかけて。 そうだ。このタトゥのことだって、僕は何も知らない。 むかつくから、閉じた瞼に軽くかみついてやった。 僕のこと意外は考えないで。
「きょ、恭弥!?なんで恭弥からキス、うわ、ちょっと俺けっこう嬉しいんだけど!」
驚きながら、何ほっぺた緩ませてんだか。 でも、もうディーノの頭の中には僕しかいない。 けっこう単純だもんね。大人なのに。 得意げになってる僕を、僕は知らない。
「僕がイタリアを見るまで、そんな楽しそうに話さないでね。」
僕が知らない場所の話ばっか、楽しそうにしないでよ。
でもいつか、君の隣でそれを見る。
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