夏祭り謳歌





「…もしもし恭弥サン、その格好は?」
「……甚平。」


 『そう、年に一度の逢瀬なんて』


「赤ん坊が七夕祭りやるからって…。そもそも貴方、それで呼ばれて日本に来たんでしょ。」
「まぁ、そうだけど。」

「仕事は終わらせて来たの?」
「もちろん。だから暫くはこっちにいられるぜ。」
「…そう、よかった。」

「ねぇディーノ、」
「ん?」
「貴方は一年に一度なんて耐えられる?」
「ははっ無理だな!」
「…じゃあ仕事、頑張ってね。」
「あぁ。」

「綺麗だなぁ…、天の川。」
「星屑なんて邪魔なだけだよ。」

 『二人を裂くだけの川なんて、ね』




 ―――――― そんな七夕だけで、夏が終わるはずがない ――――――




「キョーヤ!夕方迎え行くから甚平着て待ってて!」
「は??」

そう言い残して貴方は消えた。
次の日、律儀に着てる僕は結構な馬鹿だと思う。

「…貴方好きだね、コレ。」
「ん〜、好きだな。」
「はぁ…」

そして車に連れ込まれた。
もう慣れた、だから何も言わない。
後部座席に二人。隣の男は終始にやけ顔。
鼠色の甚平。前、七夕の時に着たやつだ。
隣の男は気に入っているらしく、目線はずっと僕に注がれている。
うつ向いてるしかない。顔を上げたら貴方がいるから。
ほら着いたぜ、なんて声でようやく顔を上げれた。唖然。

「こんな所に僕を連れてきた理由は?」
「…デート??」

そう、まさにこんな所。
暗闇にゆらゆらと灯かりが揺らめく、少し大きい河のほとり。
遠くの揺らめきは提灯や夜店のものだろう。
そして目の前の河に浮かぶ船もまた趣深く灯かりがともっていた。

「屋形船貸し切りって…」
「まぁいいだろ!恭弥、船酔いとかしやすいのか?」
「別に大丈夫だけど、そういう問題じゃ」

ない、と言おうとしたら遮られた。
座るディーノの腕の中に引きずりこまれ、…外が良く見える。

「五、四、三、二、一」
「??」

火の玉が空に駆ける音、途端に色づく夜空たち。
手を伸ばせば届きそうな大輪の花。
瞬きすらもったいない。

「…花火。綺麗だね、貴方にしては中々じゃない。」
「だろっ!」

火薬の匂いがする。得意気な顔にお似合いな。
ふわりと微笑むんだもの、恥ずかしくなって鏡のような川に視線を落とす。
真っ暗な水面に降り注ごうとする火の粉たちは綺麗だ。
素直に関心していると、ふいに何かを差し出された。

「ん、やるよ。」
「林檎飴、どうしたの?」
「恭弥迎えに行く前に見かけて綺麗だから買った。」

甘い、飴細工の匂いと貴方の言葉。
舌でちろりと舐めた味が優しかったから、お礼はちゃんと言った。

「…ありがと。」
「それ、かじって食べるもんなのか?」
「面倒なんだよ。」

最初はぺろぺろと舐めていたがいい加減疲れた。
それにね、ディーノ。そんなにチラチラ見られてたら食べにくい。
仕方なく歯を立てて飴を砕いていく。
舐めるだけ舐めて薄くなった飴をばりばりと食べるのは易しい。
しゃくしゃくと林檎と飴のハーモニーを楽しむ、が長くは続かない。

「飽きた。食べていいよこれ。」
「恭弥?」
「別に貴方にあげようと思って残したんじゃないし…」
(あー… もう可愛い!!)

縁日の食べ物は半分ぐらいで飽きてしまう。
そんなこと言っても抱きついてる男は聞きもしないだろうけど。
ぎゅーって僕を抱きしめてる暇があるなら、早く受け取ってほしい。

「ディーノ、花火見えない!」
「俺は恭弥がみたいの。」

むかついたから口に突っ込んでやった。
するとディーノから一言。

「口紅つけたみたい。」

あぁ、食紅のせい。でも教えない。
目の前の男の唇が染まるまで。