Surrealismの解し難い感情





レモンイエローとは薄く淡い黄色を指す。

目の前の色は、そんな色じゃない。

シチリアの太陽を浴びた金髪の男は言った。



「なんで浮いてる岩は落ちないんだろうな。」



いったい何の話だ。

間髪を容れずそう問うと、彼は「マグリットの絵を見た」と答えた。

あぁ、物凄く気だるくて眠い。

でもピロートークは嫌いじゃないから、目を閉じながら耳くらい傾けてあげる。

知らない人間の名前が出てきたのは面白くないけど。

それは寝返りをうって背中を向けることで提示しておこう。



不機嫌に眉をひそめていると、晒した背中から彼がぎゅっと抱きしめるのが分かった。

きっと肌が合うって、こういう事を言うんだ。

彼曰く、その人は「1667年に亡くなってる」らしい。別に興味ないけど。

どんな絵なのか聞くと、大きな岩が一つ、空に浮かんでいると教えてくれた。

そしてその岩には城が建っているんだとか。

浮かぶ岩の背景は青空。下には寄せては返す波。

彼があまりにも嬉々と話すから、瞼の裏にいちいちそれを描いてみる。

考えてるのは腰が酷く痛むなとか、そんなことばかりだけど。



「絵なんだから、別に浮かんでたっていいじゃない。」



鈍痛にさいなまれた結果の答えは至極単純なもの。

彼は返事が気に入ったらしく、「お前らしいや」なんて頭をわしわし撫でた。

きっと後ろで優しい顔をしているんだろう。

別に大した事を言った訳じゃないのに誇らく思う自分が信じられない。

それでも、嬉しいことは事実で。

あぁ、心臓が跳ねたのもぴったりくっついた彼には分かるだろう。

彼が言うにマグリットは『岩は何故落ちないのか』と思わせて『そもそも何故落ちるのか』と提示しているらしい。

なんて、冷静に聞いてなんていられなかった。



派手な刺青に飾られた逞しい腕が、不必要に頭を撫でて遊び始めたから。

髪をすく仕草はもういつもの事だけど、何回されても心地よいし恥ずかしい。

指の腹を触る感覚が、直接僕の頭皮を通って脳に流れてくるようで。

薄明かりとシーツに目をやって、ぼんやりと考えてみた。

岩は落ちる。それこそ何故。

重力なんてものこそ誰かの妄想なのかもしれないじゃないか。

日常に潜む常識への反抗。

いいじゃない。そういうの、嫌いじゃないよ。



抱かれた腕の中でくるりと一回りして向かい合う。

どうしてこんなに人間の匂いが気持ちいいのか。

呼吸をするたび、肺から貴方に染まっていくみたい。

見つめる穏やかな、思った通り優しい表情の彼と。

男だとか、そんなの抜きで。

愛し合うなんて僕らには普通なことだから。

当たり前の事を一つ一つ見直していこう。







「ねぇ、どうして恋に落ちたの?なんで好きになったの?」







非合理的な意識下の中で

決定的なまでに貴方を好きになった

過程が未だに分からない。