四月馬鹿



「嫌い。」
「触んないで。」
「うざったい。」
「やだ。」

それはいつものことであり、本日は通常の三倍以上のセリフ。
ソファーにもたれてる恭弥を見つけて、背中から抱きしめたとたんに言われた。
お決まりとばかりに続けて四つ。
「やだ」とかはしょっちゅう言われるけど、どうして今日はこんなに言われるんだ。
ここが学校の応接室だとか、たぶんそんなことは関係ない。

それよりも嫌いって、おい。
抱きしめられるの嫌いだったか?
背中からぎゅっとするのだけは、むすっとしたままさせてくれるのに。
…ちょっと、いんにゃ結構凹む。
ソファーを挟んで恭弥を抱きしめるの、俺は好きなのに。
悪戯っぽく耳に唇をよせて、低い声で囁く。
耳が弱いのは重々承知してる。

「なぁ… どうして嫌いなんだ?」
「…っ知らない。喋んないで。」

むず痒いのか首を僅かに反らして。
払い除けられたけど、真っ赤になった恭弥は可愛い。

「耳弱いもんな。」
「知ってるなら止めて。」
「本当、今日は嫌ばっかりだな。」

たまに愛が分からなくなる。
俺ばっかりが恭弥の事、好きなんじゃないかって。
ため息混じりでそう言ったら、何故だか恭弥が不思議そうな顔をした。
そして今度は恭弥の方が盛大なため息。
訳も分からず慌ててると、無言でカレンダーを指差された。
…四月の一日。ん??

「き、恭弥。今日はもしかしてエイプリルフールっ!?」

ソファーに座る背中を揺すりながら、さっきまでの恭弥の態度をお復習。
三割増しの嫌いは、あまのじゃくだったわけで。
段々と頬を赤らめてゆく恭弥の様子から、照れ隠しだと確信する。

「…知らない。貴方なんか嫌いだよ。」

つれない態度も、頬を赤く染め上げる血潮には敵わない。

「あっ、恭弥は俺の事大好きってことか!」
「し、知らない!!」

知らない。別にいい。
つれない君は、それでも否定しないんだから。
肯定に取っても、別に構わないってことだ。

「俺は、愛につく嘘は持ってない。どんな日だって恭弥が好きだ!」

耳に囁いて、その躯の反応を楽しむのも好きだけど。
ふんわりとした黒い髪に埋もれて口づけるのもいい。
もそもそと振り返ってから、にっかりと笑う俺の顔を見て恭弥が見とれている。
あぁもうその表情も態度も仕草も、そんな愛しいものに俺は嘘なんかつけない。
快楽だけじゃない幸せを知っているから。
抱きしめて浮かれ跳ねる心にどんな嘘がつけるんだ。



「四月馬鹿だね、大好きだよ。」

そこで優し気に笑うのは反則だろ。