御返しを頂戴?
ホテル。 こんな最上階にずかずかと上がりこめるようになるとは思ってなかった。 なんて思いながらも、通る事が習慣になった廊下を進んでいく。 そして迷うことなく、ディーノの部屋に入る。 迷うわけがない。 数えきれないくらい来てるし、案内してくれる人なら飽きる程いる。 今日だって半ば無理矢理ディーノの部屋に押し込まれた。
ここ1ヶ月、まず一番に眼に入る光景は変わらない。 テーブルの上にチョコひろげてるディーノの姿。 入った瞬間に鼻につく甘い匂い。 幸せそうにチョコほうばってる。 …今日はトリュフらしい。 指を舐めていたディーノと目が合う。 バレンタインから、ずっとこう。僕だって見てて飽きる。
「…バレンタインからもう一月たつんだけど。」 「ん?だってチョコ食べてるとヒバリがくれたの思い出して幸せにな」 「煩い黙って咬み殺す。」
殴りかかったのに、素早くトンファーを止められる。 こういう動作だけは、ボスらしい強さがある。 …いつもこうならいいのに。 無言のため息を吐くついで、飽きたからトンファーをしまう。 くるりと後ろを向いてから僕は聞いた。
「貴方はそんな小さいもので満足なわけ?」 「あんまりくれないからな。チョコ、一番嬉しかったぜ。」
その辺の女が十人いたら十人惚れるような笑い方。 …どっかりとソファに座ってチョコを頬張るのは似合わないような、ね。 黙りこむしかないじゃないか。 チョコなんかがディーノの一番なんて。 今更だけど結構哀しいし焦る。
僕は、彼に、何もあげれてない。
机の上に乗ったワイン発見。 ラベルを見ると、なるほど。 ディーノの生まれ年のものだった。 それをひょいっと持っていく。 何となく、あおってしまいたい気分だった。
「ディーノ、今日ホワイトデーだよ。これ頂戴。」 「ホワイトデー?それより恭弥、飲めないだろ。」
最後の方は全然聞こえなかった。 無視してバスルームまで歩いてきてしまったから。 こう言う時、広すぎるっていうのも良くないと感じる。 もし狭かったら、理由をつけて離れる事も出来ないのに。 バスルームの鍵はあげたままにしておいて、蛇口を思いきり捻る。 服を来たまま、温いお湯を流しっぱなし。 水蒸気でバスルームがいっぱいになったころ。 堅いコルクに突き刺してゆく。 僕はワインの栓を抜いた。
シャワーの音がする。 恭弥の言動の理由が分からない。 殴りかかったと思ったら急にバスルームへ。 バスルームからは流したままの水の音だけ。 取りあえずドアノブに手をかける。 鍵が開いていること少し驚きつつも感謝。
「開けるぞー…」
声をかけながら恐る恐るドアを開けると、シャワーをかけられた。 水のように刺す冷たさじゃない、人肌くらいのお湯。
「恭弥っ!?」
水濡れの恭弥。雨をわざと浴びたような濡れ方。 服を来たままだから、傘を無くした子供みいだった。 ぼーと見とれていたら、目の前を紫の水が伝う。 息を吸い込むと芳醇なワインの香り。
「僕から貰った一番のものがチョコっていうの、やだな。」
とぷとぷと俺の頭上に注がれるワイン。 シャワーは降り注ぐまま。 水蒸気と一緒に芳醇なワインが香るバスルーム。
「ねぇ、今日は僕が君から貰う日。」
濡れたシャツから透ける素肌がヤバい。 そう思って必死に耐えてる俺を無視するように恭弥の眼は煽る。 金髪を滴るワインを恭弥は美味しそうに舐めていた。 あぁ心臓が自棄に煩い。
「…酔ってんのか。」 「さぁね。」
妖艶に笑う眼には、確かに熱が宿っている。 床にまきちらされたワイン。 揮発したアルコールに酔ったんだろう。 きっと、互いに。
「…前、言葉が欲しいって言ったね。あげるよ。」
確かに何かそんな事言った気がする。 無言のまま頷くと、恭弥は肩に腕を回した。
「大好き。愛してる。ずっと一緒に――」
一緒に。 まずは可愛らしい唇を一舐めして。 息苦しさに開いた口から舌を割り入れて、口内を蹂躙する。 小さい頭を抱えるようにキスを降らせば、もう逃げられない。 満足して解放したころには、恭弥が完全に脱力していた。 なのに、このじゃじゃ馬は――――
「もっと頂戴。僕がしたいの。」 「えっ!?ちょ恭―――
今度は恭弥が俺をバスルームの壁に押し付けて咬むようなキス。 酔うと積極的飛び越して襲うのか人を。 恭弥のキスに振り回されてみるのも何だか面白いかもしれない。 歪んだ、回りくどく拙いキス。 たまに合う視線にゾクゾクするような。 互いの息の限界に、つぅと銀の糸をひいた。 赤い舌が誘うように艶っぽい。 その媚態ににやけていると、下から威嚇の上目遣いが。
「…今夜は寝かさない。付き合ってね。」
だって今日は僕が貰う日
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