切り餅の番犬。僕の大型犬。
トースターの前で喜々として待つ姿はさながら忠犬。



    切り餅の番犬



「…そんなに楽しい?」
「これが膨らむんだもんなぁ不思議だよなぁ…」


膨らんだら教えてと言っといて、とりあえず僕は冷蔵庫をあさる。
きなこなんて無いから、醤油でいいよね…。
とりあえず海苔ならあるし。
大体、なんで新年早々押しかけて「お餅食べたい!」とか言い出すかな。
ため息交じりに海苔を持ってる方の手で、パタンと冷蔵庫の扉を閉める。
その二つを持って振り返って見ると、 …嬉々とした犬がいた。

「恭弥、ふくれたふくれた!!早く早く!!」

はいはいとおざなりな返事を返して僕はトースターへ。
仲良く並んだそれは、本当にぷくーっと膨らんでいた。
となりとくっついてるし。引き剥がすの大変なんだから。

「手でとっていいのか、恭弥。」
「取れないこともないよ。箸でやると、箸に餅がくっついて思わず咬み殺したくなるんだ。」

熱くたって、手でやるのが一番早いと僕は思う。
皿に一通り移し終わったので、ディーノにそれを譲る。

「ほら、しょうゆつけて海苔まいて。冷めると美味しくないから。」

やっと自分の出番だとばかりに、テーブルへ向かっていく後ろ姿は…
尻尾を振っている犬だった。


しょうゆをつける前に、手でひっぱたりして遊んでいる。
冷めたら美味しくないって言ったのに…
僕が食べるんじゃないから知ったことか。

「柔らかくって、もちもちしてんな。」

ぷにぷにと突いて遊んでいるが、こういう姿の大人は始めてみた。
まぁ外人だし、普通の反応なのかもしれない。
だから気にもしないで、熱く入れたお茶を冷ましながら言葉を返した。
このイタリア人が何を考えてるのかなんて、考えずに。

「だから“もち”って言うんでしょ。」


「ほんと、恭弥みたいだ!」






君は僕の何処を見てるの。


「いっただきまぁー…」
「食べないで、それ。僕なんでしょ。」