なっ?恭弥もケータイ持ってんだろ?ほら、これ俺のだから…
モーション
「じゃあなぁ恭弥。連絡くれよ!」
爽やかすぎる笑顔をのこし、少しだけ大人な背中は秋空に去っていった。 手渡されたのは、小さな紙切れ。 書かれているのは本当に単純な個人情報だけ。 適当なメモに書き殴って破りましたと、紙の切口が自己主張していた。 僕は別に教えてなんて言ってないし、教えたくもなかったのに。 「知ってた方が便利だろ?」って彼は言ってたけど… 果たして僕から連絡すること何てあるのだろうか。
ぽつんと一人でいる応接室。 これがあるべき姿なのに。 散々君が来て騒いでくから、静かなのが少しだけ物足りない。 …窓は開けっぱなしにするし。 風邪ひいたらどうしてくれるんだろう。 面倒に思うが寒さには変えられない。 閉めようと窓枠に触れたら、冷たさに指先が震えた。 …むしゃくしゃする。 窓から下を見ると他校の奴らが十人程度。 ちょうどいいじゃないか。 いつもより酷く、咬み殺そうと、決めた。
応接室をでると草壁がいた。 やっぱりあの群は僕の敵だったみたい。
「救急車… 呼んでおいてね。」
なんてことはない喧嘩だった。 むしろ一方的な暴行。 僕には傷一つない。 ただ迷惑なのは、殴ったときの返り血。 いつも思う。 これは仕返しのつもりなのか。 ワイシャツが血染めになるのは、雨で濡れたときみたいに張り付いて気持ちわるい。 (クリーニングってけっこう高いのにな) 真っ黒い学ランも、ずっしりと重くのしかかる。 水分を吸うと、本当に服というのは重くなるのだ。
…帰るの面倒だな。
秋風が血に濡れた肌に冷たい。 思わず冷えた肩を抱く。 …もっと大きな手のひらが欲しい。 不覚にもそう思った。 目の前のものはもう退屈しのぎにもならないし。 おもむろに取り出すのは暇つぶしの定番。 ケータイと、もらったメモの切れはし。 メールアドレスを打ち込むのはキライだ。 まず何よりも面倒だから。 そんなものより、11個の番号がいい。
機械の音が規則的に続く。 この音が連絡しろと面倒を押し付けた男に繋がると思うと、少し笑えた。 ブツリと、回線は、繋がる。
「き、恭 「もしもし、ディーノ、お風呂かして。迎えきて、学校だから。じゃあね。」
少しだけディーノの声が聞こえたけど、あえて僕は無視した。 勝手に巻くしたてて、勝手切った。 でもどうせ、今どこだとかいう電話がかかってくるだろう。 君のパターンぐらい、僕にはすぐ分かるから。 だからしばらく待っててあげる。 マナーモードを解除したケータイを僕はポケットに押し込んだ。
ボス、どうしたんですか? …恭弥が俺に会いたいって!!
きっと気持ちはお互い様。
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