「ねぇ、お菓子は?」
「…へ?」






―― All Hallow Even ――






もはや恒例となった、俺の強引でしつこいエスコートでホテルに到着。
ん?後ろから抱え込んで車に押し込むだけだけど。
恭弥はいつもこのことを誘拐と言うが、まぁ愛があるから良いと思う。
とりあえず憎まれ口をたたくが、トンファーまでは出さないのが証拠。
運転は適当に任せて、後部座席で隣り合わせ。
肝心の恭弥のほうは窓ばっかり見て、こっちなんか見てもくれないけど。
それでも、小さいあたまにあるつむじなんかが可愛いと思う。
それに窓に写った仏頂面も。
外は夜の流れる街、だからガラスは鏡の様に恭弥をよく写す。
本人気づいてないだろうが、恭弥の顔はここからでも見れるのに。
それでもついっとそっぽを向いてる彼が、なんともいじらしい。
そして止まった車から、じたじたと形ばかりの抵抗を見せる恭弥をホテルの部屋に放り込んで、今に至る。

ちなみに恭弥は今、二人掛けソファーの上でへばっている。
ここに来るまでに少し疲れたらしい。
形ばかりといっても、暴れるのに多分本人は必死だからだ。
じゃじゃ馬はじゃじゃ馬でいるのも疲れたらしい。
今はソファーにもたれて、本当にくたーっとしていた。
本革のソファーの上、広いのに丸まっている。
…本当に小動物だ。
それともスペース、わざわざ空けてくれてんのかな…
少し自惚れながら隣に座ろうと前を通ったら、シャツの裾を摘まれた。

「ねぇ、お菓子は?」
「…へ?」

「…君、イベント好きそうなのにね。忙しくて忘れてた?」

そういえば最近カレンダー見てなかったっけ…。
立ったまま話すのもなんなので、隣に座ると睨まれた。
…やっぱ自惚れかなぁー。
それよれも驚いた俺の顔がよっぽどあほ面だったらしく、恭弥はご満悦の表情だった。
してやったりとはまさにこのこと。

「もってないなら… イタズラさせてね?」
「え゛っ!!」

恭弥の笑った顔が凄く好きだ。
めったに俺には見せてくれない。それを見るためならなんだってしよう。
それでも、そう思えたとしても。隣に座っている恭弥がいま物凄く笑っていたとしても。
それが猟奇的で、俺に向けられているなんて。

嗚呼… 酷く悲しいなぁ、おい。

「何、考えごと?いい度胸じゃない…。」
恭弥の細っこい指が俺の首に触れた。トンファーはまだ構えていなかったらしい。
とか思ってたら首に今度は冷たいものが――――

ガンッ!!

「きょ、恭弥!!なにちょっと本気なんだよ!!」
首にあてがったトンファーに全体重を乗せて俺を押し倒してきた。
…骨、折れるぞ。
とっさに腕を挟んでとりあえず免れたけど。
「…イタズラ、だけど?それとも、もっと?」
ニィとホントに面白そうにしてやがる。

絶対、殺す気だろ!!

「えっと、ほ、ほら恭弥、飴!!」
適当にジーンズのポケットをガサガサあさる。
だいたいなんか入ってるものだ。
慌てながら必死で探すと、やっぱり飴がひとつ出てきた。
とりあえず寝た体制から隣に座りなおし、飴をやったらやったで、恭弥はつまらなさそうに受け取った。

「欲しかったんじゃなかったのか?」
「せっかく咬み殺そうと思ったのに…。」

恭弥はいつでも戦闘マニアだ。
西洋的お盆は、うっかり俺の命日にされるところだった。



やっとこさ落ち付いてくれた恭弥は、ただいま飴を食しております。
チェルシーとかいうらしい甘ったるいのをカラカラ舐めています。
以外に噛んだりはしないらしい。

「ねぇ、ディーノ。 …僕、お菓子もってないんだ。」
「お前だけって、ずるくねぇか?」

…そうだ、俺なんて殺人未遂の被害者だ。
お情け頂戴の視線を送ると、ガリガリと音がした。
どうやらチェルシーの死亡時刻だったらしい。

「仕方ないね…。」

そのまま甘ったるい唇で恭弥からキスをせがまれた。
なんて珍しいことだろう!!
招くように伸ばされた両腕に甘んじて、溺れてしまおう。


「…イタズラくらいなら、しても、いいよ?」
「俺が、それで気がすんだら、な。」








おかし て くれなきゃいたずらするぞ