君を思う僕がキライ。

僕で遊ぶ君がキライ。





  
レンマ 





そう、いつもの応接室。
いつくるか分からない君を待って、もう何日になるんだろう。
僕の為だけに存在するソファーに寝転んで、今日も待っている。
なんとなく。


 ―――――こんな女々しい自分なんて噛み殺してしまいたい。


そう、いつ来るかも分からないのに。
そんな君を、ずっと待ってる。
そんな自分が可笑しくて、ため息だけが溢れた。
開け放した窓から入ってくる風。
身勝手だね、まるで貴方みたいに。
ひらひらとカーテンを煽るだけ煽って、また何処吹く風。

「どうした恭弥、ため息なんかついて。」

「さぁ、なんでだろう。」

ふいに視界が暗くなる。
寝転ぶ僕を覗き込む影。
その影を作ってるのは、毎日待っていた人物だった。

「もう死んだんだと思ってたけど?」

「酷いな、恭弥は。簡単に俺を殺すなよ。」

酷いとかいいながら口元が緩んでるのは僕の気のせいだろうか。

…でも君に触れたい。
無遠慮に覆い被さる君を見て、そう思うんだ。

近づいてきた君は僕を抱きしめる。
僕がソファーから起きる隙も与えずに。
悪戯な目、なのにそのブラウンは深く大人びていて。
全て丸く包んでしまう。
それが例え、棘々しい僕だとしても。



「死んだ男のこと待ってたんだ。」



          ―――嗚呼



「…ずっと俺が来るの待ってたんだろ?」



          ―――何も



「俺愛されてんな、恭弥に。」



          ―――間違ってない。



「勝手に自惚れないでくれる?」

「はは、恭弥らしいや。でも大丈夫ちゃんと俺も好きだから。」



          ―――嘘つき



イタリアに何人もの愛人がいるのは知っている。
みんなに 『アイシテル』 を囁くことも。
君がキャバッローネのボスだから。仕方ない。
 …僕も、そんな人達の中の一人にすぎないということも。
知ってる。僕だけが特別なんて自惚れてないから。
でも悔しいことに、この逞しい腕の中が、とても心地よいなんて。
思ってる自分が…

          ―――――大嫌いだ。



「…恭弥だけだ。愛してる愛してる愛してる。」



たとえ君が似合いすぎるくらい素敵に愛を囁いたとしてもだ。
その価値はきっと君にとってはそれほどのものではなくて。
僕にとってはたった一人からの特別な科白だったのに。




「勝手にしてよ。」




もし僕が今、君に手を伸ばすかわりに 『アイシテル』 と言ったら…


君は僕をどうするだろうね。





レンマ






すがりたいのにすがれない。