「さぁ恭弥、年越し蕎麦食べながら紅白見ましょう、紅白!」
「なに日本人ぶってるの…。」




 
 
 煩悩の犬は追えども去らず
 
 




大晦日の11時ごろ、ドアを叩く音とチャイムの音がして。
とりあえず玄関に向かって誰なのか確認しようと思ったけれど。
尋ねなくても、分かった。

「開けてください、恭弥!!愛しい恋人の骸です!!」
「…開けるから、黙って。」

こんなに殺したい奴、すぐ分かってしまう。
勝手に言いふらされて、(しかも家の前で)本当に迷惑でしかない。
しかも開けないなら開けないで、ドアを壊してまで骸は入ってくる。(前科一犯
それを身を持って知っている僕は、とりあえずドアを開けた。

「あ゛ー、早く蕎麦茹でて下さい、恭弥!」
そう言って玄関で袋入りの蕎麦を投げ渡して、骸は勝手にリビングへと行ってしまった。
どうやらテレビのスイッチへとダッシュしているらしい。
人の家なんだけど。

「仕方ないな。何でわざわざ僕が作らなきゃいけないの…。」

とりあえず台所に蕎麦を持って行って、水を入れた鍋を火にかけた。
お湯沸かすくらいなら、僕にだって出来る。








「骸。はい、蕎麦。」
めんつゆをとりあえずお湯で薄めればいいんだろ。
具なんて何にもないけど、まぁまぁの味にはなった。
…けっこう時間、かかったけどね。

「ホントに恭弥が作ってくれたんですか!?」
「君が作れって言ったんでしょ。」

一人前だけの蕎麦を目の前に、骸ってば本当に驚いてるし。
少しふてくされた視線を送ると、手招きされた。
リビングの椅子に座る骸の前に立てば、ぐいと引き寄せられる。
もう今日は抵抗する気も無かった。
今日くらいは、素直になってやろう。
それに骸の上に座って、体温に包みこまれるのも悪くない。

「恭弥、聞こえますか?除夜の鐘です!本当に108回鳴るんですか?」
「…君の煩悩なんて、何回鳴らしても足りないでしょ。」

ずるずると蕎麦を食べながら、本当に骸は聞こえる鐘を数えているらしい。
骸の煩悩を払える程の鐘がこの世にあるとは思えないけど。

「鐘に意味なんてあるんですか?ただのイベントかと思ってましたよ。」
「108の煩悩を、消してくんだよ。欲とかそういうの。」

それを聞くや否や、骸は蕎麦を落としそうになった。
考えこむような顔をしてるから、どうしたかと思えば…

「恭弥を愛してるので掃えません!いやむしろ掃わなくていい!」

まったく、真剣に何を悩んでるんだか。

「僕だって払いきれるわけないでしょ」

新年早々、煩悩のキスは和風な蕎麦の味。
君の喜ぶ顔を見たいっていう、いっぱいの欲が詰まった蕎麦の味。








一月一日、またその欲を身にまとう。