0時0分の逃走
 
 
 
 
 



あと少しで日付も変わるだろうと言うころ、ケータイに電話が入った。
ただ光るだけのケータイを見やると、案の定『山本武』。
もう寝ようと思ってた所なのに。
せっかくケータイも黙らせておいたのに。
…目に入ってしまった、着信をしつこいまでに主張するケータイ。
しばらく見つめていけも、切れる気配はない。
仕方なく手にとって、布団に潜り込みながら通話ボタンを押した。

「おっ、やっぱ起きてたかぁ!よかったー。」
「…何?」

布団をしっかり引っ張り上げて、枕に顔をうずめる。
そのまま横にくたりと寝返りをうって。
ご機嫌なケータイを顔に沿うように押し付けて、眠るために目を閉じた。

「やっぱヒバリでも誕生日って嬉しいのな。」
「僕、何も言ってないんだけど。」

声がいつもよりご機嫌だと言われて、ため息が出た。
誕生日なんかどうでもいい、君からの電話だったからなんて言えるわけがない。
だから僕の口からは裏腹な事ばかり。

「…君と同じ年なんて嫌だからね。」
「俺は十日ちょいだけど嬉しかったぜ。」

どうして君からはそんな素直な言葉ばかり出るだろう。
反則だ、目を瞑って声だけなんて聞いてるんじゃなかった。
何だか心臓が可笑しくなる。
どうして君は0時になる前に、僕に電話したんだろう。
理由を考えてみると、けっこう愉快。



「なら、…追いかけて来れば?」



一番に祝おうって、そう簡単にはさせないよ。
あと十秒という時にそう告げて、電話を切った。
引き留める声は聞かない。
失敗したなぁという顔をしてる君がいると思うと至極愉快。
布団にケータイを引きずり込む。
明日起きたら、君からメールが来てるんだろう。
きっと目が覚めた僕が最初に見つけるのは、無言で光るケータイ。
無機質な機械に、おやすみと優しく声をかけて。
両手でケータイを包み込み、僕は0時過ぎの微睡みに落ちた。









僕が死んで、僕の時が止まり、君が僕を抜かすまで
0時0分 君からの 逃走