白い液体に空気をたくさん含ませて。

甘ったるいバニラが致死量幾ばくか酸素に混ざるまで。

カシャカシャとリズミカルにかきまぜる僕の横では、あまり器用そうではない音。

ドン。ドン。

鈍い音によって赤いイチゴが分断される。

上手く切れてはいない断面。

赤いグチャグチャはさながら臓器のようで。

まぁ、綱吉は見たことなんて無いだろうけど。


 『食』 とは人が 『喰』 こと。








 ― Buon compleanno. ―








料理とは各も野性的。
其れを喰う人は各も猟気的。

「…ごめん、骸。俺、あんま得意じゃないから。」

僕の苺への視線を、何かと勘違いしたんだろう。
しゅんと頭を垂れる。
しかし其の顔もまた一興。
下がった眉と伏せた睫と、何よりも加虐心
をくすぐる濡れた瞳。
僕の思い人は愛かなしい程に愛らしい。

「別に構いませんよ。美味しく食べれればそれでいいんですから。」

そういうとまた途端に明るくなる表情。
僕の一挙一動にめまぐるしく振り回されてる君。
そしてその仕草で持って僕を狂わせるのは六道全てに置いても唯一人。

「骸ー、生クリーム貸して!」

沢田綱吉、唯一人。

あらかじめ焼いてあるスポンジに喜々とした表情で白いクリームを塗りたくる。
さながら海綿体と石膏といったところか。
…綱吉の誕生日だから、僕がやるべき作業なのだけれど。
彼が夢中になってしまっているので取り上げるわけにもいかない。

「はい綱吉、苺です。」

ほどよくグチャグチャなイチゴ。
きっと甘酸っぱいんだろう。
ボールの中のほぐれた果肉から予感の香りがする。
指で摘んでそれを彼は均一に並べて。
そしてまた茶色のスポンジをのせ、白で塗りたくる。
スポンジはさながら真皮。
重ねるクリームは表皮。
潰れたイチゴは血液の如し。
其れを終始笑顔でいじるのは、彼。
果物の赤い液に手を染めながら。
右といつも対峙するのは、僕。
皮膚の下に巡る鮮烈な真紅。

食と人は似て非なり。
非なり。
どうかこれが僕の杞憂ですみますよう。
彼は10代目だ。

いつか、きっと、あやめるだろう。




―――――いつかイチゴの果肉に手を染める。




「ねぇ骸、ほら出来たよ!でも苺とクリームあまっちゃった…」

ほら例えば今みたいに。

大きくなると、歳をとると割り切ることがいっぱいになる。
もし君が割りきって人を殺めたら、泣くのだろうか。
それとも今みたいに、笑っていられるのだろうか。

それとも、壊れる…

思わずその彼の手を掴んだ。

「骸?」
「誕生日、おめでとうございます。」

その右手にクチヅケを。
イチゴは本当に本当に甘酸っぱい。
無遠慮に舌を這わせる。
とっさに怯えた体を無理矢理に引き寄せて。
僕は左手で台所に放置された生クリームを彼の唇に塗る。
それから唇と唇の接吻を。
其れは致死量幾ばくかの甘さ。

と、吐息が溶け出す… 熱。


もし綱吉、君が手を赤で染めるなら、僕は何度でも清めよう。
舌を這わせて、浅ましく僕以外を奪い取ってしまおう。
泣いた顔も笑った顔も… もし壊れてしまったとしても…
愛を語るのは、僕だけでいい。
年月を重ねるたび、君に其の日が近づくけれど…




『Buon compleanno. 』



君は何度でも、其の儘に復活すればいい。