黒曜の制服に袖を通した。

以前とは違う、黒曜の制服に。







   嗚 呼 ! 







カサカサと泣く衣服が“アタラシイ”のだと、触れる皮膚に訴え続ける。
それでも変わらずに続く、二つの影法師。
夜の街を進む。
耳につく、ジィーというフィラメント達の悲鳴。
白々しい街頭が、みっつの影によく馴染んでいた。


唯一つ、形を変えた影が真ん中に一つ。
進む道、コンクリートに揺らいで映っていた。
前の名を、骸と、言う。

彼、否、彼女は






―――――――霧の守護者。




マフィアを嫌っていた。
彼はモルモット同然に扱った人間そのものを嫌っていた。
人間なんて全て諦めていたし、なにより全て見捨てていた。
彼は彼を愛し、彼の為に生きる。
それは絶対の真理。

の、ように思われていたけれども。
彼は彼女になった。
変わらないものなんて、無い。
彼は受け入れた。守護者を。
決定がすんなり心に落ち着いたことに、本人が一番驚いてるだろう。


沢田綱吉。
あの人のお陰で、歯車は回りだしたのだろうか。
宿命だろうか、運命だろうか。
コツコツと、三人分の靴音が響きわたる。
長い、長い道。
その先は闇が揺らいでいる。

闇…。

止まる、足。



夜になると
止まらない

―――― 涙。



本当は被害者で。
誰からも手をさしのべられない 子供。
赤い瞳を埋められた 子供。
夢魔にさいなまれ続けた 子供。



全て、見てしまった 子供。



「犬…、千種…。」



その声色もつむぐ唇も伏せた瞳も何もかも違う。
高く鳴く声。水を湛える瞳。

面影。

面影はあるというのに。
それは妙に儚く思えて、妙に艶やか。
二つの影を呼ぶのは変わらないのに…
声だけが違う。
それでも無言で耳を傾けてくれる。

静かだ。
親しみを感じると同時にひどく、淋しい。
振り返るのは、少女だった。




「また、契約ってくれませんか。 …これでも不安なんですよ。」




影はゆらゆら。
心はふらふら。

もう何もかも、待っていられない。
右の指が、犬の頬をつぅとなぞる。
左の指が、千種の袖を引っ張る。



涙が
涙が

止まらない。





人間にも変わらないものがある。


だから、アオゾラに会いにいきましょう。








此れ以上待てない、と。