就寝


朝方の館はしんと静まり返っていた。
当たり前だ、夜中さんざんはしゃぎまくった小さな主をやっと寝かしつけたところなのだ。
寝ぐずって中々解放してもらえなかったけど、別に構わない。
屋敷中の時間全てとお嬢様とのひと時を天秤なんかにかけられる訳ないのだから。
もちろん大切なのは後者。

「私が寝付くまでここにいなさい、咲夜。いいわね?」

ベッドの端に咲夜を座らせて、お嬢様がやっとシーツに潜り込んだ時にはもう空が白んでいた。
しばらくすると薄く色づいた唇はすぅすぅ安らかな寝息をたて、紅色の瞳も伏せられてしまう。
それでもエプロンのちょうちょ結びのはしっこをぎゅっと握った手が離れる気配がない。
仕方なく時間を弄った。
起きるわけがない、分かってはいるが少胸が高鳴る。
エプロンをしゅるりと解きそっと枕元に置く。

「おやすみなさい、レミリアお嬢様。」

閉じた瞳にそっと唇を寄せてから、時間を戻した。
麻の甘い時間は終わり。
ベッドへ背を向けて音を立てないように絨毯の上を歩く。
代わりのエプロンを取りに行かないと…
だけど名残惜しくなり、そっと開いた扉から、もう一度小さな主を振り返る。
お嬢様はもぞもぞ寝返りをうちながら、エプロンに頬を寄せて眠っていた。
嬉しさと優越感とちょっとした照れが咲夜の頬をほんのり染めていく。





また一日完璧に働く報酬としては最上だった。








2009/6/24