右足の枷。

その鍵は窓から外へ放られた。
しばらくして響いた、金属が地に落ちた音。
支配者は、もう永久に逃げられぬぞという顔をしていた。
その優越感に酔う顔が憎らしい。
合戦、策略、暗殺、買収、婚姻… 方法はいくらでもある。
なんだって、幾度となく乗り越えてきた。
稀代の策士を侮るなかれ。自らのために戦う強さを。







籠の小鳥は地に落ちれども







もう此処にどれくらい居るのか、分からない。
此処はとても真っ暗で、時を感じることも出来ない。
右足に繋がれた鎖だけが、重さと冷たさを教えてくれた。
それ以外、もう何も分からないし感じとれない。
いつから、どうして、此処にいるのだろうか。
寝るも覚めるも、大差ない。
我は何処から来て、何処へ向かっていたのか。
眠りの中、稀に暗闇ではない場所にいる我にあう。
いったい我はどのような者だったのか。
時間軸か曖昧になるに合わせ、存在もあやふやになる。

   我は誰だ。

もうそれすら分からずとも、構わない。
流された感覚は苦しみを伴わない。
名は、呼ばれてこその名なのだから。
何を持っていて、何をしていたのか、分からない。




床と思える闇に寝る。
常闇に抱かれる。
深々とした静寂が耳に染みわたる…。
中に微かに響く靴音。
それは硬い石との間に規則的に響き。
久方ぶりの‘音’だった。
普段は聞こえるはずのない音。 …音?

声が聞こえる。


   「元就…」


闇の中から、声が聞こえる。
聴覚が戻り、方向感覚が戻る。


   「元就、どこにいるんだよ…。」


我を呼ぶ、声が聞こえる。
名前が戻り、血が巡る。


   「も… とちか。」


姿も見えぬというのに、闇の向こうに奴がいる気がした。
闇が、真四角に外れた。


   「元就!!」


我を呼び捨てる奴など、この世には一人しかいない。
…嗚呼、光というものは眩しすぎて痛いな。
身体をも突き刺す、細い針のようだ。
そう、だからだ。
我の頬に涙が伝っているのは。