真夜中に僕は起きた。
風が強い日だった。





僕の元に君が帰る日





必然だった。君の香りがした気がした。
ベッドから起きて窓の外を見る。
冬の空気がガラスさえも凍てつかせる12月。
結露の曇り硝子を手で拭う。


窓の外には―――
 月を隠す雲と人々の姿。


寒さを増大させるような薄気味悪い青い月の下。
偶然かもしれない。
それでも、そんな偶然いままでなかった。
目を凝らすと馬車も見える。
遠くから来たのだろうか。こんな夜にわざわざ。
この鉛色をした雲が立ち込めているのに。

幾千もの過ぎた夜が、僕の心を揺らす。
君がいる、そんな気がした。

だから飛び出した。
ベッドの横に置いてあるブーツに足を入れて。
団服だけを手にとり、教団内を駆け降りる。


外に出た。
真っ暗な闇しか無かった。
さっきの馬車はもういない。
僕は立ち尽くすことしか出来なかった。

身体が寒さに悲鳴をあげ、逆に目が闇に慣れたころ、青い月に気づく。
強風に煽られたらしく、雲はもうそこにはなく。
それは外で見上げると、妙に美しいものだった。


空はまだ暗い真夜中
青い月だけを残して


教団の外にある小さな教会の上。
青白い月がぽっかりと浮かぶ。
行こう、と思った。

呼ばれた。
僕はゆっくりと教会へ歩む。
まだ薄く雪が地面にかかっている中を、靴跡で汚しながら。
ぴたりと閉ざされた扉。
しかし押せば簡単に開いた。
ギギギという古めかしい悲鳴。
無理矢理にでもという僕の狂気を嘲笑う、悲鳴。

教会は外と変わらないくらい、空気が凍てついていた。
古い教会だ。
隙間から、吹き荒ぶ風が入って僕の前髪をもてあそぶ。
ベルベットの赤絨毯を踏み潰して祭壇へ。
無人の長椅子が少し不気味だけれど、この時間に人がいる方が不気味だろう。
こんな時間こんな場所には―――――









黒塗りの柩に眠る君と、立ち尽くす僕だけがいれば十分だった。








白い腕を胸で組む君は綺麗だ。
だってそれは、僕が繋ぐのが好きだった手。
閉じられたその瞼が愛しい。
眠った君の瞼は僕が口付ける場所だった。

ここが寒いからだろうか。

君の腕に触れても、瞼に口付けても、体温だけが足りない。
君はもう、僕がいないときに冷えきってしまったんだね。
何も変わらないのに。
でも僕は辛いけど、君が綺麗なままでよかった。
何もかもの全部が好きだったから。



「Although I was never have a chance to tell you my feelings again…」

教団に来て、あまり英語が得意じゃなかった君にそれを教えたのは僕。

「I won't forget you for the rest of my life.」




君には伝わるかな。
もう眠ってしまったか。


おかえり、ずっと君を待ってた。





―――――この気持ちを君に伝えることはもう出来ないけれど

命が終わるまで、忘れない。