贈り物の用途


 
 


「おめでと、菊、たんじょうびおめでと。」
「あ、ハークさん。ありがとうございます。」

てるてるてるてるてる…

おめでとうございますありがとうございます。
このやり取りが、先程からエンドレスループしている。
畳の上で正座で膝を付き合わせて何をやってるんでしょうか私は、と菊が自問自答し始めてもう何分だろう。
それでもハークがゆるゆるしたいつもよりは幾分か真面目な顔で言うもんだから、遮ることも出来ずにいた。
身体中に猫がまとわりついてるのがデフォルトなのに、縁側に猫を寝かせているくらい今日のハークは真面目だ。
『誕生日おめでとう』を一生懸命に訴えている。
嬉しいけれど何だかむず痒くなって、菊はじっと見つめてくる翡翠の瞳から眼を逸らした。

「昔は、数え年でしたから… 生まれた日を祝うなんて概念、なかったんですけどね」

歳をとるのがこの年になって嬉しく思うとは思いませんでした。
もう一度、ふわりと微笑んでから丁寧に三つ指で礼をする。
顔を上げるとハークにぎゅうと抱きつかれ、菊は狼狽した。

「ちょ、ハークくん!」
「足痺れたから… もう少しだけ、ダメ?」

ダメ、何て言えるわけもなく暫くは膝枕となった。
ハークくんからのプレゼントは気になるが、ここからでは届かない。

「ハークくん、プレゼントの中身を確かめたいのですが…」
「レスボス島で130年前から手作りしてるやつ。」
「な、なんですかそれは…」

訝しげにする菊の首筋をハークはおもむろに撫でて、肩がビクッと跳ねた事に満足して答えた。
…手のひらを捕まえて、撫でて撫でてと無言でリクエストをしてから。

「オリーブの石鹸。菊、冬は乾燥するって言ってたから良いと思って。」

一緒にお風呂入ったら、洗ってあげる。
すべすべの菊はきっともっと可愛い。

捕まえられていた手を引っ張られ、指を甘噛みされる。
途端に菊の顔が真っ赤になったあたり、意図は伝わったようで。
世界一回数が多いハークと一緒に入浴して菊が無事だった試しがない。
それでもキラキラした眼に菊が拒絶出来るはずもなく。

「…善処しますよ」

そう、誤魔化すぐらいしか答える術などなかった。

(とんだものを贈られてしまいました)