五月に眠る
「美味しそうでしょー、お兄さん特製のラズベリーケーキ!」
(甘いのもいいけど肉、つまみ…)
「兄さん、今日はストレートティーでいいな? ケーキがそれだけ甘いんだ。」
(ビールが飲みたいぜ、ルッツ!)
「どうしたん?ぼーっとして。まぁ仕方ないなぁ、ぽかぽか陽気やもんね。」
(そう、なんか俺様幸せだぜー)
庭にある、まぁるいテーブルにみんなで座って
右にはルッツ。四つのティーカップに飴色の紅茶を注いでる。
左にはアントーニョ。隙を見て遠慮なく俺のケーキを攫っていく。
前にはフランシス。眼を細め頬杖ついて食べるのを楽しそうに笑って見てる。
もちろん約束なんてしてない。
自然に集まった仲間でのティータイムは、欧州の春みたく一気に盛り上がった。
「ケーキはおやつ! 飲む用のつまみも腕を振るうから待っててね、ギルちゃん」
「とっておきが冷やしてあるからビールは大丈夫だ、兄さん」
「ふそそそそそそー! あぁもう楽しいなぁ、親分歌うでー!」
辺りはすっかり春、五月だ。
花壇の花が綺麗に咲き誇っている。
名前が分からないからルッツに聞いてみるか、暇を見つけては手入れしてるようだし。
あ、土いじりならトーニョでもいいかもしれない。
確かトマト作ってたよな。
あー、こんなガーデンパーティーはいつ以来だろう。
あんまりよく覚えていないけど、ずっとこうしたかったのだけは覚えている。
もう少し季節が進んだら、アスター達も混ぜて庭ではしゃぎまわるか。
犬達も喜ぶだろうし、トーニョやフランシスなら全力で走りまわるはずだ。
ルッツは呆れるだろうか。いや、きっと優しい視線で遠くからじっと見守るんだ、俺を。
最後はルッツも巻き込んでホースで水浴びすれば、ぎらつく太陽が眩しい夏が完成する。
秋はもっとたくさんのお菓子を用意してもらおう。
ザッハトルテも食いたいし、ローデとエリザも呼ぶか。
フェリちゃん達も呼ぼう。ルッツとトーニョがいると言えば絶対来るはずだから。
これだけの人数なら、フランシスもかなり作り甲斐があるだろう。
お礼はワインでも準備するか。
確かどっかに年代物が仕舞い込んであったから。
ボトルの年号を見ながら、たまには同年代で昔の話をするのも悪くないだろう。
俺もフランシスもトーニョも、思い出話ならいくらでもある。
…きっと冬は寒いから、ルッツと家で過ごそう。
レープクーヘンを焼いて、教会へ二人で行こう。
マフラー、お揃いのを買ったら、俺様の弟は照れながら、でも絶対つけてくれる。
クリスマスだって、家族と、ルッツと静かに過ごせればそれが俺の幸せだ。
たった一人の家族の幸せを祈って過ごす。
そしたら冬だって、幸せだ。
やりたいことがたくさんあるんだ。
それに一緒に楽しんでくれる悪友も、手伝ってくれる弟も遊びに来てくれる腐れ縁もいる。
だからまだ春でいい。
五月もやりたいことだらけだ。
1回じゃたりない、パーティーだってもっと、もっとしたい。
寒さは消えて、雪は去り、野ばらが誇る。
長い間焦がれた季節、暖かいからまだこのままでいい。
テーブルでうとうとしていたい。
なんだか気持ちいいんだ、俺様疲れてたのか
誰も起こさないでくれ
きっと、これは夢なんだろう
だって可笑しい、こんなの幸せすぎる
会いたい、
帰りたい、
少しだけ幸せを噛み締めたい
『いつまで寝てるの?』
『っああああぁアッ、ひ…っ、ぃ』
『まぁこんなにボロボロなら無理もないか、抵抗しないの? ……ギルくん? ギル君?』
『……ぁ、…………っ』
ルッツの頭を撫でているはずの手が、何故か今踏みつけられて骨が砕けている
トーニョに合わせて歌う喉は、言葉を忘れ痛みに絶叫する以外のことを忘れた
フランシスに笑い返しているから、イヴァンの前でも口許だけ笑い狂っている
どちらが夢なのか、もう俺には分からない
だけどお願いだ、世界から少しだけ、少しだけ―――
(そう思って、俺は永遠の五月を過ごす)
バイルシュミットは 目覚めない
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