SCHOOL LIFE



キンコンカンとチャイムがなって、W学園は放課後。
金曜日という事もあってどことなく楽しそうだ。
そして廊下では、会話に花を咲かす三人組の姿が。
ルートが眉間にしわを寄せるのもお構いなく、くるんとした毛をぴこぴこさせながらフェリは手を握っていた。

「やっぱルートあったかいねぇ」
「やはり筋肉や体格が関係しているのでしょうか」
「いや、そんなまじまじと握られてもだな…」

菊までルートの手を握り出す始末だ。
はぁぁ… とルートが額に手を当てて長いため息をつく。
ふと視線を上げると、廊下の向こうから走ってくる銀髪を見つけた。
ため息と眉間の皺がますます深くなる。
廊下は走らないを全力で守らない、ギルベルトバイルシュミットその人。

「ルッツがあったけぇのは俺様がお見通しだッ!」
「よし、兄貴、帰れ」
「何でだよ!!」

ルートの呆れた声と怖いぐらいの笑顔。
さっきまで嬉嬉として両手を広げマッハダッシュしていたが、ギルに抱きつく人はいない。
当のルートが腕組みをして見下ろしているからだ。
その現実に、どこか寂しそうな目で遠くを見つめたかと思えば三角座りを始めた姿は、見ていてすごく痛ましい。

「す、すまない兄さんつい」
「はははヴェスト、俺様は独りでも大丈夫だぜ… でも抱き締めろよそこは…」
「いや、つい本音と建前が逆になってしまって」
「まぁ…、お兄さまは寛大だから許すぜ!」
「わぁ、ギルって優しいねぇー」

それフォローになってないじゃないですかいいんですか!
ギルベルトさんは帰れが本音って言われますけど!
寛大とか言ってるばあいじゃないですよねそれ!
菊が顔は穏やかなまま心の中で荒ぶっているが、まぁ心の中なので誰も気づかない。
ギルベルト本人はフェリの一言に舞い上がっている。
駄目だこいつら早く何とかしないと。まぁ思うのは心の中ですけど。

「欧米文化は複雑怪奇ですっ… 私そろそろ帰ります!」
「あっ、俺も俺も!じゃあね、ルート!菊ー!」
「えぇちょっ、日本人にハグは良くないと思います!」

くるりときびすを返した菊の背中にフェリがどーんと体当たりして抱きつく。
相手がルートならびくともしないので何の問題もないが、相手は菊だ。

「お兄さんはいいんですか!」
「兄ちゃんはアントーニョ兄ちゃんと帰るって!」
「いいからハグはやめて下さいフェリシアーノ君!」

きっと断り切れずにハグされたまま帰る羽目になるんだろう。
ルートは耳まで真っ赤にさせて、ぽこぽこしながらよろめいている菊に手を振った。

「さぁヴェスト、俺たちも帰ろうぜ!」
「あぁ」

ギルは自転車の鍵を指にひっかけて、くるくると回し始めた。
自転車は一台しかない。
朝、遅刻ぎりぎりなギルが乗って、帰りはルートが乗る。
後ろにギルを乗せて。
いつも止めている場所に行くと、どうやら先客のようだ。
近付くにつれ賑やかな声が聞こえてくる。

「だからいいって!」
「全然よくないんだぞ!」
「俺は歩いて帰る!」
「アーサー!」

生徒会長アーサーとその弟(と言うと拗ねる)アルフレッド。
ぷすぷすしたりぽこぽこしたり、忙しい奴らだまったく。

「乗ってってやれよアーサー。けっこう楽だぜ?」
「ギ、ギルベルト!」
「そうだぞアーサー!」
「あ、アル!てめぇ、鞄とってくな!」

またギャーギャー騒ぎながら二人分の荷物をカゴに押し込んで、アルは自転車にまたがる。
ここまできたら、アーサーはもう諦めるしかないだろう。

「お前のために乗るんじゃないんだからな!俺が楽したいだけだからな!」
「いいから早くのってくれよアーサー!」
「…兄さん、かばん」
「あぁ、頼むな」

こっちも弟に荷物を預けて自転車に乗る。
騒がしいのは放っておこう。
安全運転なヴェストの運転はスリルこそないが快適だ。
こぎ始めると風が気持ちいい。

「アル、お前心臓の音早くないか?」
「そ、そそんなことないんだぞ!」
「………高血圧か?」
「いったい何でそうなるんだい!」

あんな照れ屋でも天の邪鬼でもない。
優しいし、気も効くし、ムキムキあったかいし。
俺様の弟はさすが俺様の弟だぜーっ!

「兄さん後ろの席で暴れるのはやめてくれ」
「まぁ許せ、あいつら面白ぇんだ」

そう言うとスピードが上がる。
ちぇーだ。すぐ見えなくなっちまった。
だけどギルはニィと不敵に笑う。
サドルを掴んでいた手を、ムキムキなウエストに伸ばす。

「ヴェスト、なぁ嫉妬したんだろ?」
「あぁ、俺といるときは俺の方を見てくれ」
「素直で可愛い弟の頼みなら、聞いてやるぜ!」
「Danke」

逞しい背中だ。昔はあんなに小さかったのに。
すり寄るとくすぐったいと苦情がくる。

「いいじゃねぇかよ」
「不意打ちは控えてくれ」

見ると耳まで赤くなっている。
面白くなって、絡めた腕をもっと絡め、背中にぺったりと張り付いた。

「ヴェスト、ヴェスト、あったけぇー、俺様のヴェストー」
「…兄さん、今日は週末だな」
「……ふぇ?」

「煽った責任は休日中にとってもらうが問題ないな?」

「いや、煽ってねぇ!ムキムキがあったかいのが悪い!」
「兄さん答えは?」

ちくしょう、楽しそうな声しやがって!
子供体温を抱きしめて添い寝した時が、このムキムキにもあったのによぉー!
でも耳に低音で響くこの声で言われたら、もう答えは一つしか無い。

「どうせJaしか認めないんだろ?」
「もちろん」

あぁ、残念ながらもう家が見えてきた。
土曜日曜すべての予定が決まった瞬間の俺には地獄であり天国な我が家!
せめて外出するくらいの体力が残ってますように!
いいや残して下さいお願いしますヴェスト!

「何をしようか、楽しみだな兄さん?」

ひどくご機嫌な声を聞いて、夕飯だけはたくさん食べておこうと思った。

(ベッドから出れないことぐらいお見通しだぜーっ!)