欠損は何処へまれた
 
 
 
 
 
「兄さんッ!」
「…ルッツ、おはよ」

帰ってきたばかりの兄と、仕事に忙殺されている弟の久しぶりの休暇
休日の朝はいつもよりもゆっくり始まり、いつもより穏やかなはずだった

「なに慌ててんだ、コーヒー入れたけど飲むか?」
「……あ、あぁ」

二階から走って降りてきた弟を諭すように、テーブルにことりとマグを置く
弟が座ったのを見てから、兄も椅子をひいて座った

「頼むから、目の届かないとこへ行かないでくれ… 兄さん」
「いや、起こすの悪ぃなと思ってさ」

まぁいいから飲めよ、促してから兄は自分の分を取りに席を立つ
キッチンへ行こうとする兄の背を見つめる弟は、とっさにシャツを摘んだ
兄がくるり振り返ると、弟は唖然とした表情を一瞬だけ見せた

「ルッツ? …ヴェスト、どうした?」
「い、いや… まだ体調も優れないだろう、兄さんは座っててくれ」

不器用にはぐらかすと弟は立ち上がる
そして、その背を今度は兄が見つめていた

「……そうだな、なぁヴェスト」

弟は声に振り返る
ふわり、それは兄が見せた珍しい微笑み

「何も出来ない俺の側にいてくれ、俺を置いていかないでくれ」

矜持も邪魔をしない、言葉がすらすらと唇をすべる
そして座る兄を見つめて、弟は心から満たされた笑みを浮かべるのだ
それは留守番中の子供が帰る人を見つけた時の様な、安心した暖かい笑顔

「あぁ、もちろんじゃないか兄さん」

仕方のない人だと、心底愛しいと双碧を細めて穏やかに微笑む
そしてまた兄も静かに笑い返し、弟のマグの中身を一気に飲み干す
甘さなど無い
喉元を熱い苦味が降下していく
何もかも満たされない胃に黒く、どす黒く落ちて満ちていく

嗚呼、

「「貴方無しでは、生きていけない」」

それはか、