Master&Slave






ルッツの後ろにある寝室の扉が音を立てて閉まった
いつも聞いてる音が今日は底冷えするほどに恐ろしく感じる

「さて、兄さん」
「ル、ルッツ!ま、待て、」

もちろん寝室に追い込まれたのが俺で、後ろ手に扉を閉めたのがルッツ
ああああ、俺様なんかしたか?
なんで、なんでそんな、堪らないくらいの笑みでにじり寄ってくるんだ

「諦めろ、見苦しいぞ」
「か、簡単に諦められるか!」

ひざ裏にベッドがあたる
後ろにはもう逃げられないし、前にはスイッチが入っちまってる弟だ
様子を窺うように見上げると冷めた青色が蔑む視線で俺を射抜く
目があったら最後、不意に覗いた赤い舌にくらりと酔ってベッドに座りこんだ
ルッツの手には梱包用の黒いガムテープ
かぶれたらどうすんだ、せめてプレイ用のにしてくれよと思うが無理だろう
きっと道具を選ぶとこに立ち会わせる羞恥プレイから始めるんだこのサディストは!
逸らされない瞳にずっと拘束されていると、ルッツはにこりと笑った
手に持ったテープを思いっきり引っ張りながら
ビリビリと鳴る音が鼓膜に落ちる、いいように拘束される姿がフラッシュバックする
つま先から全身を一気に甘いしびれが駆けていく
愉悦からくる声の震えは、きっともう殺せない
それにルッツが気付かないなんてはずはない

「兄さん、たかがガムテープじゃないか」
「っあ、」
「ほら、両手を前に出してくれないか?」
「い… 嫌、だ」

すぐに従ってやるほどお前のお兄様はマゾじゃねぇんだ
どっちかっていうとサドなんだ
でもそれ故に分かることもある
抵抗するほどに、ルッツが興奮するってことも
それに俺は知ってんだぜ、目を細めて笑うサディストが最高に綺麗なことも

「そんな欲情した目をして…、兄さん」

吐息交じりの低い声を耳に流し込まれながら、そっとベッドに押し倒される
…檻に入れられたのも同然だ、きっと朝まで出られない
無駄に恭しく掴まれた手首は簡単にぐるぐる巻きにされた
頭の上で一纏めにされ、その後はキスの嵐
啄ばむのは最初だけ、深くなるそれは確実に快楽に落としてくる
多少抵抗してみても拘束が緩む気配はない
…解くときどーすんだよ、これ
気持ちよさにぼんやりする頭じゃ、解決策なんて思いつかない

「これで仕上げだ、兄さん」
「…ぁ、っはヴェスト、…んンーッン」

貪るようなキスからやっと解放される
しかし酸欠で喘ぐ唇は、短く切ったガムテープでぺったり塞がれた
せめてもの抵抗でくぐもった声を上げる俺を馬乗りになって見下ろす暴君!




(もっとその目で俺を見てくれ愛しいヴェスト!)