クレシー、ポワティエ、アジャンクール、





         オルレアン
 
 
 










「あの子は… 普通の女の子だったんだ…」
「『イギリス』組み敷いてる奴が、上で馬鹿言ってんじゃねぇよ。『フランス』」

殴り飛ばすぞ、と低く唸るとぽつぽつと涙が降る。
泥沼化して硬直した戦線で二人、出会ってしまったのは何の因果だろう。
フランシスが憔悴している理由もアーサーには心当たりがあった。
だが、その瞳の色は初めてだった。
殺気だった目に出会うとこは慣れすぎていたのに。
その何かに… 神とかいう奴を通り越したところに漠然と問う目。
不意に魅入られて、忘れたはずの罪悪感が焦れて、首の横に剣が刺さる結果となった。

「国の俺を切ったところでどうにもならねぇ。殴るか?それとも、」

犯 す か ?

耳にねじ込むような禁断のワード。
席を切ったようにフランシスの手が乱暴に服をまさぐる。
それを嘲笑いながらアーサーから噛みつくように口づける。
熱い舌が絡み、閉じることもなかった瞳も絡む。
キスが深くなればなるほど、フランシスの抱き方が優しいものになり、アーサーは焦れた。

「優しくすんな、さっさとヤれ。」
「アーサー?」

俺は聖女じゃねぇよ。
手酷く抱け
汚せよ、
憂さ位晴れるだろ。

「遠くを見るな、俺を見ろ。フランス、てめぇの前にいるのはイギリスだ。」

エメラルドグリーンが突き刺さる。
挑発するような絶対零度の炎を孕むギラついた視線は仮面を剥いだ。

「イギリスが殺した… 聖女を、殺した、お前がッ」
「そうだ、殺した。」

真摯な瞳とぶつかった。そうそれでいい。
国の本能に従えばいい。
首に緩く手がかかり、ゆっくりと締め上げられる。
なのに、見上げるフランシスの顔の方が苦しそうでアーサーには理解できなかった。

「アーサー、でも…」
「自分に嘘つくなら、もうどうにでもしろよ」
「征服したい、殺してやりたい、」

燃やしたい。
アーサー、色白いし綺麗だろうなきっと。
魔女裁判から殺さない程度にやってさ…

「…まずは抱くので我慢しとくわ、坊ちゃん。」

首筋に唇が落ちて赤い痕が出来る。
僅かな痛みの感覚にアーサーの唇も笑みを浮かべ、悪戯に膝で下腹部を弄った。

「坊ちゃん積極的じゃない」
「さっさとシやがれ。襲うぞ?」

互いに互いの服を脱がしながら、罵り合う。
そんなにお兄さんのこと好き?
なんておどけて聞くと恐ろしいくらい冷めた視線と罵声が帰ってきた。

「愛されたくもない、てめぇなんかに」

上等じゃないか。
軍服を脱がすのは背徳的で刺激的だ。
空にいるらしい奴の後光なんて知るものか。
散漫に傷だらけの肌を撫でて、突起に舌を這わすと震える身体。
噎せ返るほどの劣情に身を任せて、好き勝手にプライドの高い生き物を蹂躙する快感。

「ん…ぁ、ふらん、す」
「もっと乱れてほしいな、イギリス。」

今更、愛がなんだとかどうだっていいことで。
一瞬の快楽だけ受け取って、またいつも通り最前線で対峙すればいい。
挑発しながら、なんだかんだ身を貸してくれたアーサーに対する償いだ。
人間の儚さなんか、とっくの昔に知ってたはずだったのに。

「…んァひッ、ああっひっあッ … 」
「でも、アーサー。 …抱きしめてくれよ。」

その縋りつく手が、快楽からだっていいからもっと。



憎いんじゃない、寂しいんだ



百年戦争で仏英でした。
今よりちょっと若いフランスとイギリス。
でもイギリスって童顔だから、あんまり変わらない気がします。
あの子を挟むと一気にシリアス路線でした。