何もしないで一日が終わった





久々に長い休暇をもらったから、お菓子片手にアーサーん家を訪ねてみた。
ら、ぶすっとした顔しながら素直に扉を開けてくれて。
ちょっと怖いなぁと思いながら、大人しくその背中について行く。
さてこの後どこへデートに誘おうか。
ふわふわ揺れる金髪を眺めながら、ぼーっと考えてたらもうリビングだ。
ソファに腰を下ろし今日のお土産は洋梨のタルトだと告げると、ストレートでいいなと言って背中は台所へ消えた。

アーサーの入れる紅茶は美味しい
…セットのスコーンが無ければ。

それを回避するために家に行く時はお菓子を作ってくことにしている。
会えない時間が長い時は、何作ろうかとニヨニヨ考えるのもまた面白い。
前にアップルパイを持ってったら喜んでたから、今回も甘いもの。
坊ちゃんとつき合い出してからというもの、料理のレパートリーが増えた気がするなぁ。
そういう日常の穏やかな変化も嬉しく思うあたり、俺は相当アーサーに溺れている。

「何ぼーっとしてんだ？」
「アーサーのこと考えてたよ。」

からかいながら言うと、がちゃんと乱暴にティーセットが机に置かれる。
そろそろ拳が飛んでくるかなと身構えると、それがまた予想外。
飛んできたのはアーサーのタックルだった。
ソファに二人でぼすんとなだれ込む。あー土のにおい、アーサーのにおいだ。
ちっさいまるっこい頭をわしゃわしゃと撫でると、気持ち良さそうに目を細めている。
お互い一か月近くこうして合わなかったから、禁断病状が出ているのかもしれない。
そうだそうだ、こうみえてこの坊ちゃんは甘えんぼの寂しがり屋だった。
天の邪鬼が自分から抱きついてくるくらい、じらせてしまったらしい。

「ごめんね、なかなか会いに来れなくて。」
「別に…　頼んでねぇし。」

口でそんなこと言っても、お兄さんの膝にもそもそ頭をのっけながらじゃ説得力がない。
肘掛けに足のっけちゃって…　まったくジェントルは何処行ったんだか。
お行儀悪いのが膝枕で寝てるから、紅茶も飲めたものじゃない。
ティーポットからは飴色の香気が漂うけれど、アーサーはもう紅茶にかまう気が無いらしい。

「紅茶はもういの？」
「…久しぶりなんだから、甘やかせよ。」

横向きからもそもそと仰向けに寝返った坊ちゃんの深緑と目が合う。
今さらってぐらい長い付き合いなんだよ、ほんとに。
なのにいつまでたっても、会えないともうどうしようもない。

「いいけど、坊ちゃん…　お兄さんそれだけじゃ済みそうにないんだけどなぁー。」

覆いかぶさって額にやさしく唇を落とすと、不機嫌そうに見上げてくる大きな瞳。
そこじゃねぇよと眉間にしわ寄せて、無言で訴えてくる。
可愛いなぁ。そう思うから、始まったら止められるとは思わない。
ただアーサーがくっついていたいだけならこの辺りで引いておこう。
ゆるゆるとした空気の中でまどろんでるのも中々いいもんだから。
そんなふうに言い聞かせてるこっちの気も知らないでアーサーは不服そうで。

「アーサー、どっか行く？」
「…別に、いいや。」

いいや。
そう言うや否や、俺のネクタイを引っ掴んでぐいとギリギリまで顔を近づけられる。
吐息がかかる距離で深緑にどきどきしてこれはちょっとお兄さん理性がぐらぐらしますよ…
じっと見つめていると小さな口がしどろもどろしてから、もごもご喋った。

「口にしろよばかぁ」


　ほら今日の予定はもう、何にもなくなった！



以前フラアサソートというものをやったところ…
どうもソファーでまったりしてるのが好きと結果が出たので、書いてみました。
やっぱり仏英は甘く甘くなりますね。