Love each other!!




「ドルゥフゥゥゥ!ハロウィンだぞっブラザー!ビビットカラーにゴーストなんてサイコーじゃないか!」
「僕も楽しいよ兄弟!でもイタズラはやめてよね、アルのはジョークじゃすまないんだから!」


窓の外、ニューヨークの街はオレンジ色のネオンに輝いている
アメリカ中にある家の中の一つが、ハロウィンの会場だった
いつもは白い部屋に原色の家具が置かれている部屋も、今日はオレンジかぼちゃが並んでいる
ちなみに何個かすでに大破してるのは、はしゃぎ過ぎてアルが暴れたからだ
まぁ今日で終わるイベントだし、構わない
テーブル並ぶ蛍光色のお菓子の中から、マシューは白いポップコーンに手を伸ばす
アルは隣でポテトチップスを一人で抱え込んでガサゴソ
BGMはチープなB級ホラー映画
グラマラスなボディを画面いっぱいに晒されても、さほど興味が湧かない
甲高いヒロインの悲鳴さえ、誰も真面目にとりあっちゃいない現状

「えー… 君のクマをデコレードしただけじゃないか、あの菊んとこの血だらけベアに!」
「もうっ!あのグリズリーけっこう本気でびっくりしたんだからね!爪も鋭いし!」

口をとがらせてどこ吹く風のジェイソンはビビットなコウモリキャンディをガリガリと噛み砕く
右羽をバキンと折って頬張ると、口の中に広がったのはケミカルなグレープ味
使い魔が白クマのウィッチはひんやり冷えているカボチャプリンに舌鼓みを打つ
カボチャとミルクたっぷりのやさしい甘さに、砂糖を煮詰めて作られたほろ苦いカラメル

「あーやっぱり美味しいな、さすがフランシスさん」
「まぁ、君を閉じこめたいくらい愛してる屋敷妖怪のお手製ならね!」

ちらり
アルが視線を送るのは、開けっ放しのドアから見えるキッチン
そこにはソファにいる二人よりも本格的な仮装をした二人組の後ろ姿
古い貴族風の格好をした後ろ姿が、屋敷妖怪のフランシス
完成するお菓子が原型をとどめていられるのはこの人がいてくれるからだろう
がばっと振り返り、いたずらを思いついたジェイソンは屋敷妖怪に話しかける

「そうだろーフランシスー?マシューのこともごむごもごご…」
「ちょっと、アルっ!恥ずかしいからやめてよ!」
「むぐ… ぷはっ、いいじゃないか!ウソは言ってないんだぞっ!」
「…このやろぉー、」

ずぼっ
無言でアルの口に突っ込まれたのはアーサーお手製マシな出来上がりのスコーン、
ケミカルなグレープ味を一瞬で吹っ飛ばすクレイジーさは数百年経っても変わる気配がない
普段から食べ慣れてるといえば慣れているけれど、味はどうしたって無理
兄弟同士、ソファの上のドタバタ劇は、また一つがしゃーんとカボチャを大破させた

「んー?アルなになに、お兄さん聞こえなかったー」
「年なんじゃねぇの、ヒゲ妖怪? てめぇがマシューのこと…」

振り返らずに声だけ飛ばしたフランシスの隣、マントをはおったジェントルマンな吸血鬼の仮装がアーサー
テーブルに並んでいるのに誰も手を付けないモノを作り出した張本人
アルの口を涙目になってもごもご塞いでいるマシューは、キッチンにも聞こえる声で叫ぶ

「アルもアーサーさんのこと、大好きなくせに!いい加減、襲っちゃいなよ!このヘタレジェイソン!」
「うわぁああああマシューッ!!! It can’t be!信じられない!」
「You asked for it、自業自得だよねークマ次郎さーん」

オーマイゴットを絶叫するジェイソンを、しれっとした顔をして膝にクマを抱っこするウィッチ
手に持っていたパンプキンを床に落として大破させた吸血鬼は、耳まで真っ赤に染めてしまっている
ニヨニヨと意地悪く近づいて、フランシスがアーサーの耳にそっと呟く

「でー吸血鬼さん、夜這いはいつの予定なの?」
「…そっちこそ、」
「俺の方は今すぐでも構わないんだけど?あ、ソファ使うわー、こっちはお気遣いなくー」

真っ赤な顔でアーサーに睨まれても、フランシスは相変わらず心底面白そうににやけたまま
返事を聞く前に、エプロンを解いてさっさとマシューの元へ歩いていく
いつもはペラペラと回る舌が、こんな時に限ってなんの役にもたたない
アーサーの足元にはグチャグチャに飛び散ったパンプキンヘッド
BGMは相変わらず引っ切り無しにスクリームを繰り返すチープなホラー映画

「あんなに恥ずかしがって、やっぱりマシューは可愛いなぁ… キスしていい?」
「あぁ言うのは人に言われたくないのに、アルのやつってば  ん… ぁ、フランシスさっ」
「可愛いウィッチは腕の中に閉じ込めちゃおうか?」

ばたん

「もう、あとに引けないんだぞアーサー… ヒーローはヘタレじゃない… 反対意見は認めないぞ…」

アルがキッチンへのドアを閉める前、聞こえたのは向こうの二人のリップ音と優しい声
ほんのり顔を赤くして泣きそうなくらい潤んだ目をしてるのに、荒く息をするジェイソンは一歩近づく
思わずアーサーは後ずさるが、すぐに行き止まり
向こうの部屋はフランシスとマシューが、その… アレだから逃げられない
だけど眼の前の欲情しきったアルは、アーサーにとって間違いなくモンスターだ

「あ、アル… その、やさしくしてくれ、たのむ、な? …な? 床のカボチャみたいなのは」
「よしじゃあさっそくいただきまぁす!」

ばさり
アーサーの着ていたベストは乱暴に投げ捨てられる
ワイシャツは無理矢理引きちぎられてボタンが飛んで床に落ちた
自分が着ていた衣装も煩わしそうにアルは投げ捨てる

「っやだ、アル… おまえなんか怖い、」
「あーもう無理なんだぞアーサーがわるい、アーサーがわるい…」

ガタン
ギラついた目に、大きな手に、身体全体で壁に取り押さえられて
アーサーの足元には、脳髄ぶちまけたパンプキンヘッド!

「仕方ねぇなぁ…」

ジーザス、ちょっぴり震えながら吸血鬼アーサーは半裸のジェイソンを抱きしめた
向こうのBGM、ヒロインの断末魔がドンッと音量を増す
妙な気遣いに照れくさくなって、おでこごっつん、つきあわせて笑い合った
ソファの上もキッチンも、欲情したモンスターのキスは




それが合図