HAPPY☆BIRTHDAY☆USA



「やぁハニー!ハッピーインディペンデンスデーな俺に素敵な夜のプレゼントはないのかい!」
「ばかぁ!でもこっちには作戦があるんだ!可愛さ余って憎さ百倍ブリタニアほあたっ☆」

ぼんっ

昼間、一通り大きな式典やらパーティーやらで盛大に誕生日を祝われたアルは夜になって、ひょっこりとアーサーの家を訪ねた。理由は簡単、式典にもパーティーにも姿を現さなかったなら確実に家にいると思ったから。ようは、ただ会いたかった。なのに顔を見ると会えた事に安心して、思っていることと違う言葉が口から飛び出してしまう。ちょっと言い過ぎたかな… と思ってアーサーを見ると予想通り泣いている、が予想外なことが一つ。やけになって酔っぱらった時みたいに笑っている。ヤバい。そう思ったときには、アーサーはステッキを自分に向けて呪文を唱え終わった後だった。そう、魔法にかかったのはアーサーだ。もくもくと立つ煙から出てきたのは緑のマントにくるまったボサボサ頭の小さい…

「……アーサー?」
「…あっ、おまえだな!」

ただ唖然と小さなアーサーを見下ろすと、アーサーは緑の丸い目をさらに丸くして、じっとこちらを見つめてからぱぁっと晴れやかな顔をする。混乱するアルをよそに、アーサーは小さい紙切れをごそごそ取り出した。大きいアーサーからの書き置きらしい。はきはきと唇が動くと、知っているけど聞き慣れない高さの声が響く。ゆっくり、拙いけどはっきりとした声が伝言を読みあげる。

「たんじょうびおめでとう、れーぞうこにあいすがあるがべつにぷれぜんとってわけじゃないからな!いじょう!」
「そっか… ありがとう、でも… なんで自分から自主的に縮んでるんだい君…」
「みらいのおれが、おまえ言ったほうがかわいいって… おまえ、だれだ?」
「今日が誕生日のアルフレッドお兄ちゃんさ!お兄ちゃんって呼んでもいいんだぞ!」

片手でひょいとアーサーを抱き上げて、冷蔵庫からバケツアイスを取り出す。ぽこぽこ怒りながらぎゃーぎゃー言ってるのは聞こえない聞こえなーい。…アイス、チョコミントか。まぁアーサーにしては悪くないじゃないか。スプーンを口にくわえて革張りのソファーにどっかり座ると、腕の中のアーサーが怪訝そうにこちらを見ている。子供の目がすごくいたい。いったい何だい?

「……おまえ、兄さんってかんじ、すげぇにあわないな」
「そうかい…」

スプーンをくわえて歩いてたのが駄目だったのかい。そう思いながら大きなスプーンで口に頬張るアイスはいつもよりちょっと冷たすぎる気がした。地味にへこんでいるアルの腕からぴょこんとアーサーは抜け出して、戸棚を背伸びしてひっぱり、ティースプーンを取り出す。なんだ、君も食べたかったのか。抱えていたバケツアイスをとなりに置いてから、膝の上をぽんぽんと叩く。銀色のスプーンをぎゅっと握ったアーサーは分からないといった顔で、きょとんと小首をかしげている。

「ほら、おいでアーサー。」

アルが満面の笑みでさらに促すと、アーサーも理解したらしくぴゃっとキッチンのカウンターへ隠れてしまった。上手く隠れたつもりかもしれないけれど、マントのすそがソファからも良く見えるあたり詰めが甘い。バケツアイスは置きっぱなしでキッチンへ向かい、マントのすそをぴんとひっぱるとアーサーはますますぴやっと跳ねあがった。

「さっさと食べおわれよっ!はなせばかぁ!こ、こわくなんかないんだからなぁ!」
「怖くないさ! それに君もアイス食べたいだろ? 甘くてすんごぉく美味しいんだぞ、これ!」
「…そ、そんなに言うなら食べてやっても」
「反対意見は認めないんだぞーっ!」

今度は両手でがっちり、しっかりと抱きしめてソファまで戻る。アーサーはもう暴れなかった。アルは自分の膝の上にアーサーを座らせて、その上にアイスを乗せてやる。大きなスプーンと小さなスプーンが、がつがつ、ちまちま、チョコミントを減らしていく。

「ほら、おいしいだろ! 気に入ったかい?」
「ま、まぁな! も、もうちょっとたべてやるくらいはな!」

思いっきり口をもごもご言わせながら食べてるあたり、相当気に入ったらしい。そういえば、大きいいつものアーサーもこうやってソファで膝に座らせると大人しくなる。小さくても、一緒なんだろうか。

「なあアーサー、…君こうやって後ろから抱っこされるの好きなんだろ?」
「す、すきじゃねぇ!好きじゃ、ばかぁ!ちがうんだからな、おまえが抱っこしたそうだから大人しく…」

それにおまえ、“兄さんたち”とちがってやさしそうだし… 語尾がもしょもしょと消えていく。ぷにぷにした柔らかそうなほっぺが真っ赤になって、丸っこい目からはぽろぽろと涙のしずくがこぼれおちる。ふぇ、ふぇ、ひく、ひく、喉がなって、嗚咽がもれる。泣きじゃくりはしない。ずっと止まないしとしと雨みたいにアーサーは泣き続ける。握っていたティースプーンがからんと落ちた。あぁ、また言い過ぎた。これが大きいアーサーだったら、しずくを舌でざらりと舐めて、おでこにキスをして、まぶたにもキスをして、もう一回ぎゅっと抱きしめて、大好きだぞって言えばいいんだけど、小さいアーサーには何をすればいいんだろう。とりあえずボサボサした金髪をわしわしと撫でてから、アイスを放り出して小さい身体を向かい合ってぎゅっと抱きしめる。この警戒心の強い寂しがり屋の人嫌いが、大きくなって一番最初に無償の愛をささげたのが、俺なんだ。数百年前の今日、大きいと思っていたアーサーが、雨にうたれて崩れ落ちて酷く小さく見えた。マスケット銃がからんと落ちた時、アーサーは今俺の眼の前で泣く小さいアーサーの面を初めて晒していたのかもしれない。強くて、弱いアーサー。メイプルのはっぱみたいな小さな手が、戸惑いながら背中にぴとりと抱きつく。

「ふぇ… もっと、ぎゅって」

言われる通りにぎゅっとしてやると、肩口にぐりぐりと甘えられて、お礼に頬にキスをくれた。思わず口に返そうと思ったけど、すんでの所でどうにか踏みとどまる。ダメだ、ダメだ。頭の中の計画ではディープキスまで軽く進行している。アーサーはアーサーだけど、今は本当に小さい子供なんだぞ!いくらここのところ忙しくて会えてなかったからって、今日すごく楽しみに期待してたからって、ダメなものはダメだ。

「あぁもう… 早く帰って来てくれよハニー、」

そうしたら寂しいなんて思えないぐらい、身体全体で心まで愛して、愛されてあげるのに。アーサーのめんどくさい遠まわしな愛し方だって今日はプレゼントだと思ってなんでも受け取ってあげる。
だってこんな小さい子からじゃ、キス以上のプレゼントなんて貰えるはずもないじゃないか!