12月24日、クリスマスイブ。
本田家には二人の影が並んでいた。
ガラガラガラと庭へ続く門を開けたアーサーと、玄関でピンポンピンポン連打するアルフレッドだ。
二人はたまたま仕事でこっちに用事があって、せっかくだから菊の顔でも見に行こうという事になったのだ。
が、10回以上連打しても菊は現れない。
アーサーが小首を傾げるころ、タッタッタッと家主の足音が玄関に響く。
そして軽快にスッパァーンと扉は開いた。


「あー… 菊、そのコイツがどうしても行くって聞かないから…」
「やぁ菊!メリークリスマスなんだぞ!」
「…神国日本にクリスマスなんて来ませんっ!!」

そしてガラガラピシャーンと閉じられたのである。

「「き、菊?」」






クリスマスなんてませんよ






「いやぁすいません、ちょっと修羅場ってて」
「…冷えピタ貼ったりして、熱でもあるのか?」
「アーサーさん、ご心配なく。ちょっとばかし寝てないだけですから」
「なんだ菊、忙しかったのかい?」
「そうなんですよねー、ははは、イベントの準備に大忙しですよははは…」

はんてんにジャージと空笑い、いつもの菊らしからぬ形相にまた小首を傾げるアーサー。
そんな彼を後目にずけずけと質問をぶつけるアルフレッドは、イベントと聞いて今日が何の日か、何の為にここに来たのか思い出したようだ。

「イベントってクリスマスのことだろう!ツリーは?チキンは?ケー…」
「ケーキなら玄関の涼しい所に頂いたのが置いてありますからご自由にどうぞ。」

『クリスマス終了のお知らせ』と高らかに述べると、菊はいそいそとこたつの中に入ってしまう。
アルはケーキが食べたいらしく玄関へ走り出す。
暇になったアーサーは菊の向かい側にもそもそと入りこんだ。

「なぁ菊、正月の準備ってそんなに大変なのか?少しくらいなら俺が手伝ってやらなくもな
「冬コミです。」

ズバァっと真顔でしれっと切り返す菊に、滑り落ちてこたつに突っ伏すアーサー。
の背中にケーキの箱を持ったアルがべったりと張り付く。

「なんだぁクリスマスじゃないのかい?」
「えぇ、クリスマスは恋人たちのイベントですから老人は遠慮しときます。」

ふーんと唇を尖らせながら、箱からケーキを出したアルはケーキがカラフルではない事に驚いていて、アーサーはお前の家のが変なんだと呆れている。
あぁ眼福ですねぇと菊がニヨニヨしているのは言うまでもない。

「では、お皿とフォーク取ってきますね。」
「あっ、菊はその忙しいんだろ。悪いな。」
「いえアーサーさん、ネタ収集には持ってこ…ゲフゲフ、大丈夫ですよ」

テーブルの上には原稿やら何やらが散らかっていたので、アーサーが順番を変えないように片付ける。
彼は以前、菊の原稿を手伝ったことがあるのだ。
そして空いたテーブルにケーキが置かれた。
こたつにケーキ。合うんだか合わないんだかよく分からない。

「アル、こたつ入れよ」
「…これ暖かくて寝そうなんだぞ」

もそもそ隣に入ると、あくび混じりで答えるアルにアーサーがふわりと笑う。
すると、子供扱いしないでくれ!とすぐに返ってきてまた笑った。

「お待たせしました。シャンパンも少しあったんで持って来ましたよ。」
「菊!」

アーサーにアルコール飲ませると大変なんだぞ!
えぇ知ってます、少しなら出来上がらないので大丈夫です。
…そうなのかい?
さじ加減ってやつです。

「内緒話するなよ!」
「あぁすいません。じゃあケーキ食べましょうか。」




「はーいアーサーさん、あーん」
「んー… 甘い。菊もっと食べたい…」
(萌ぇぇえッ!!!)
「…これがさじ加減ってやつかい?」
「えぇそうですよ、シラフと泥酔の狭間にある聖域です。」

ほろ酔いなアーサーは座ってられないのでアルを座椅子にしていて、菊が差し出すケーキを小鳥の様に啄んでいる。
少し高いアーサーの体温にアルがドキドキしてるのが菊には分かったが、そこらへんはスルースキル発動中だ。
…クリスマスなんですから、イチャイチャしてもらわないと楽しくありませんよ。

「ちなみにアルフレッドさん、」
「なんだい、菊?」

火照りながら拗ねたような顔をするアルだが、菊には照れてる様にしか見えない。
そりゃ腕の中にいる美人なお兄さんに服をきゅっと掴んだりされたらそうもなりますけど。

「向こうのお座敷に布団ひいときましたから。一組。」
「あぁありがとう菊… えっ?」
「私は二階で原稿仕上げますよ、新しいネタも出来たので」

おやすみなさい。どうぞ、ごゆっくり。眼福でした。
そう言うと隅に片してあった原稿を持って菊は階段を上がっていった。

「…あるぅ?」
「さぁてどうしようかなぁ…」

ヒーローに酔っ払いを襲う趣味はないんだけれど。
スエゼン… なんちゃらとか、カイショーナシとか明日菊に言われるのもなぁ。
とりあえず移動する事にしてこたつから出ると、アーサーが寒そうに震えたのでギュッと抱きしめてやった。




翌日、目の下に隈を作っているにも関わらず爽やかに笑う菊の原稿がクリスマスネタなのは言うまでもない。




我が家の菊さまは大体こんな感じです…。
腐男子で米英プッシュな大和魂だと思います。
とりあえずこのあとアーサーが爆睡して、アルは生殺しですw