静電気ってイタい
「…よぉ、」
「アーサー!来てくれたのかい!」
放課後、私とアルフレッドさんがそりゃあもう熱心に話している所に、アーサーさんが遠慮しがちに声をかけた。
アーサーさんは俺いないほうがいいかな… と自信なさそうに視線を逸らしていますが、アルフレッドさんと話していたのはアーサーさんの事なので、噂をすればなんとやらというタイミングです。
キラキラした目でアルフレッドさんをみやると、お星さまでも飛んできそうな勢いで任せてくれよとウィンクが返ってきました。
この青春真っ盛りの若者はようやく、それこそやーっと、この美人なお兄さんを手に入れたらしいです。
そこに至るまでのプロセスを全て相談されるのは老体に堪えましたが、全てはアーサーさんと次の新刊のため。
惚気というか何というか、…くっついたなら私の苦労も報われたというものです。
しかしまぁ最近はほっとしていたのですが、くっついたらくっついたで色々あるんですねーははは。
手を、つなぎたいのだそうです。
ずいぶんと微笑ましいでしょう? …初日にキスまでいったくせにまったく若造が。
強引に繋いでしまえばよろしいのでは。
そう言ってもアルフレッドさん、照れ隠しに唇を尖らせてこれ以上話は進まないんです。
仕方がないから、言って聞かせてあげましたよ。
アーサーさん、鞄は右に持ってらっしゃるから… 左手がお暇そうなら何となく握りなさい、と。
そして自信満々のウィンクが返ってきたわけです。
さぁ漢を見せてください、アルフレッドさん…
「菊と話してたのか。邪魔なら俺、先帰るけど…」
「君を待ってたんだぞ。 …一緒に帰ってくれないのかい?」
「い、いやぁその、別に構わねぇけど。あ、違う… その、か、帰ろう!」
「ん?素直じゃないかアーサー!じゃ帰ろう!」
じゃあな、菊とお二方とも手を振ってくれるのはいいのですが。
珍しくデレてるアーサーさんを拝めたのも大変嬉しいのですが。
いいから早く手を繋げ。
そしたら後ろ姿をポケットのデジカメで撮影するのに!
左手がお留守ですよー、程よくあいてますよーと無言の威圧を若造に送ると切羽詰ったリアクション。
あぁ、柄にもなく緊張してるんですね可愛いらしい。
意を決したのか… ぶらぶらしてる細い手に、そろりそろりと近づく大きな手。
勢いよく掴もうとして離れ、ふんわり包み込もうとして離れ
―――――そっと指と指同士が触れ合った瞬間
「「いだっ!?」」
バチッという音と共に、互いに一歩飛びのいた。
目をぱちくりさせて驚いているアーサーさんと恥ずかしそうにそっぽを向くアルフレッドさん。
三歩先の恋人たちに起こった事件、おせっかいも私の文化ですから。
「アーサーさん、静電気で痛い思いしなくてすむ方法ってご存知ですか。」
「あるのか?そんな方法?」
「俺が教えて欲しいんだぞ、菊…」
指と指だと駄目なんです。広い面積同士ならバチッとなりません。
…手のひらと手のひらなら、痛くありませんよ。
「本当だ。アル、これなら静電気こないな!」
そこまで聞くとアーサーさんは手ごろな位置にあった大きな手を捕まえてぎゅっとにぎにぎし始めた。
嬉々とした表情でアルフレッドさんに話しかけてらっしゃる、天然ですね分かります。
自らの状況が分かっているのはアルフレッドさんだけみたいですね。
現にどうしたらいいのかとオロオロして握られた手を持て余していますし。
うろたえた姿を見て、ようやくアーサーさんも気づいたようで手を離そうと力を緩めると、今度はぎゅうと握り返される番。
「……じゃあ、このまま離さないでもいいかい?」
「っえ、あ、あ、別に、構わないけど… あったかいし。」
真っ赤になったアーサーさんを引っ張っていく背中は妙に得意げで。
私に縋ってきたのは何処の誰だったんだか。
親の顔が見てみたいってもんです嗚呼、親はよく知った人でしたよあはは。
でも… 頬を赤らめるお二方はとても、眼服でした。
「アル… 家の前通り過ぎるの何回目だ?」
「…三回目。」
「いい加減目的地に着かせろばかぁ!」
「いやだぞ到着したら手放さなきゃいけないじゃないか!」
我が家の菊さまは大体こんなポジションです。
ナイスたぬき爺ちゃんwww
きっとデジカメやボイスレコーダーを所持していると思われます。
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